Deca-J有尾目部会

教科書に出て来そうな湿地(06.03.06)

もちろん、そんなものはありませんが、もしも「カスミサンショウウオの教科書」があったら、「ここが、カスミサンショウウオの棲息地です」と書いてありそうな場所でした。
某所の里山地区の休耕田。というよりは遺棄田とでも言うべき場所で、周囲は水のジワジワ染み出している雑木林。護岸されていない水路が巡り、田圃は落ち葉や倒木、泥の堆積した湿地と化していました。

得難い水路

最近では、昔ながらの棚田が残っているような里山でも、水路はコンクリートで護岸されていることが多いです。そのため、カスミサンショウウオが周囲の雑木林に例え棲息していたとしても、田圃まで降りてくることが出来ず(コンクリートの側溝は上れません。水の流れも危険なまでに速い)、その生息数が減ってきています。
田圃も水田ではなく、冬には水路から水を抜く乾田が多く(その乾田さえ減っていますが)、産卵する場所が、どんどん我国から無くなっています。

そういう現状からすると、この場所は本当に得難い場所だと言えそうです。
写真の様に、土に掘られた水路が巡る田圃は、カスミサンショウウオだけではなく、メダカやイモリやカエル等にとっても、とても貴重な場所なので、何とかこのまま破壊されずに残っていって欲しいものです。


水路の中の、要するに田圃の中は、この様にチョロチョロと水が流れる半止水の水たまりがアチコチにあり、まさに絵に描いた様なカスミサンショウウオの産卵場所で、「ついに卵塊を発見!」と行きたかったのですが、残念ながら…。
とにかく広く、しかもどこで産卵しても不思議のない場所でしたから、かなり入念に探したにも関わらず見つかりませんでした。

もっとも、入念と言っても、下手にアチコチ探し回ると冗談ではなく繁殖期の成体のカスミサンショウウオを、踏みつぶしてしまう恐れがあります。そうなっては何のための調査か意味不明なので、慎重に慎重に歩いて回ったこともあり、また今年は寒かったので、「産卵数はまだまだ少ないかも…」という思いもありました。
それに実は「ここでカスミが確認された」という情報もなく、本腰入れて探した訳でもありません。ですが、この場所を発見して「ここには絶対にカスミがいる」と感じたことも確かです。
それと共に、カスミサンショウウオの絶滅が危惧される主な要因(=乱獲によるものではなく、棲息場所の減少)に得心が行きました。
そもそも棲息していそうな、産卵しそうな場所を探すのが困難であり、例えそういう場所を発見しても(棲息地を破壊することなく)乱獲することは不可能でしょう。

ちなみに、「だから捕獲しても良い」と言っているのではないので、誤解しないように(^_^;)
捕獲するのは困難だから、商売にはならないよ!ということ。更に保護に関しては「自然のままにそっとしておく」という消極的(かつ無責任な)な物ではなく、積極的に棲息地ごと、そっくり保護すべきだということが言いたいのです。(←私はエコロジストではなく「ナチュラリストだ」宣言!!)

またもや紛らわしい方

で、やっぱりニホンアカガエルの卵塊はアチコチにありました。
ニホンアカガエルは棲息場所も、産卵時期も産卵場所も、カスミサンショウウオとほとんど似たような生き物ですから(しかも同じ理由で絶滅が危惧されていますから)、この卵塊のある場所にはカスミサンショウウオの卵塊もあって良いはずなのです。
特に、今回の場所は、前回調査した様に“カエルなら跳び越えられるがカスミには通行できない”可能性のある場所ではなく、這ってでもやって来られる場所なので、随分と期待したんですけどねぇ…。
まあ、厳密に言えば、アカガエルの方がカスミよりも少し早く産卵が始まります(そのため凍死する卵もあるとか…)から、私が行った時には、あの地域のカスミの産卵はマダだったと、思いたいです。
この場所にカスミがいないとなると、もう絶滅を食い止める術はないんじゃないかと、そこまで考えさせられるような素晴らしい場所だったのです。

イモリに関する蘊蓄はデカペディアのイモリ/ニホンイモリを。
カスミサンショウウオに関する蘊蓄はサンショウウオ/カスミサンショウウオを。
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