Deca-J有尾目部会

ニホンイモリ成体の飼い方(最低限必要な事物)

ニホンイモリ(アカハライモリ)

はじめに

おそらく、ペットとして飼育される生き物の中では、ニホンイモリ(通称アカハライモリ)は最も“簡単に飼える”生き物です。
この世の者とは思えないほど強健な生き物で、多少の飼育環境の悪化などモノともせず、簡単に入手できる餌をすぐに食べ、喧嘩も共食いもせず、腕がちぎれても骨まで再生し、眼が潰れても網膜はおろかレンズまで復活し、凍りさえしなければ冬場でも普通に餌を食べ(凍るほど寒ければ冬眠し)、夏場の高水温にも(多少はヘタるが)耐え、しかも長寿です。
イモリも飼えない人が(もしも存在するならば)飼える生き物は、地球上にはクマムシぐらいしかいないのではないでしょうか。
それでも、イモリはメンテナンスフリーでは飼えません。また私がペットショップを経営していたとすれば、客に向って「簡単に飼えます」とは絶対に言えません。
最低限の“簡単な飼い方”をここでは述べますが、最後に注意点を列挙します。わずらわしいことかと思いますが、イモリにさえ必要な注意ですから他の生き物にとっては常識以前の問題です。必ず最後までお読みください。

飼育レイアウトイメージ

飼育水槽レイアウト図

具体的な飼い方

○飼育容器
30センチ水槽でも飼えます。30センチ水槽なら2、3匹ぐらいが適当でしょう。
プラケースの壁面程度の角度なら簡単に登ります。また壁面が垂直の水槽でも、水槽の角とポンプのコード等の隙間を利用して、器用によじ登ります。わずかな隙間でも脱走しますから、蓋は必ずして、コードやホースは水槽の角ではなく辺に来るようにセットしましょう。
○底砂
薄く敷きましょう。餌と一緒に砂を飲み込んで喉や腹に詰めて死ぬという噂がありますが、ちゃんと砂は吐き出すので大丈夫です。もちろんベアタンクでも問題ありません。
○水深・陸地
水深は10センチ強あれば良いかと。イモリは時々水から出ることもありますが、基本的にはずっと水の中にいます。
ただ肺呼吸ですから、一々水面まで上がって呼吸するのも疲れるはずなので、陸地になる流木等(アク抜き必須)を入れてやりましょう。
○水流
あってもなくても良いですが、夏場は水に酸素を溶かし込むためにエアヘッドなどで水流を作ってやると良いでしょう。皮膚呼吸もしていますので。
泳ぐのが下手なので、あまり水流が強いのはダメです。
○ヒーター&クーラー
ヒーターは、全水凍結してしまわない限り必要ありません。-0℃(水面が凍る程度)でも死ぬことはありません。底まで凍ってしまうようならヒーターを入れましょう。その際は火傷させないように注意してください。
夏場、水温が35℃超えるようなら冷却措置が必要かも。普通に直射日光が当たらない様なところで飼っていれば大丈夫なはずです。
○照明器具
観賞目的以外には、特には必要ありません。爬虫類の様にUVが必要ということもありません(むしろ嫌います)。
テラリウムにする場合には照明が必要ですが、夏場に何らかの冷却措置が必要です。照明器具は大量熱源なので(イモリは平気でも)苔や水草が枯れてしまいます。
○餌
肉食です。好き嫌いはほとんどありません。冷凍赤虫、テトラガマルス(ドライ淡水ヨコエビ)、ヒカリクレストキャット(ナマズ用のペレット)など。まさかとは思いますがポップコーンは与えないでください。
冷凍赤虫やキャット(沈下性)を普段やっていて、ガマルス(浮上性)を急にやると、水底を必死で探して餌を中々見付けられません。逆もまた然り。暖かく見守ってやりましょう。
○生き餌
見た目がいかにも生き餌を好みそうなのですが、魚やエビなどの素早い生き物を捕食できるほど俊敏ではありません。水棲昆虫等なら捕食できるかもしれませんが、無理に生き餌をやる必要もないでしょう。
○混泳
まさかのはずみで、小魚やエビなどが食べられる可能性は否定できません。また逆にエビや小魚にイモリの方が突かれることもありますし、イモリまで餌が回らないケースもあり得ます。出来れば他の生き物との同居は避けましょう。
○日々のお世話
餌は食べきれる量だけを与えましょう等と適当なことを言ってはいけません。やったらやっただけ(腹がパンパンになるまで)食べます。新陳代謝がそれほど活発な生き物ではないので、餌は(食欲旺盛な春と秋でも)一週間に2回ほど(冷凍赤虫なら2匹で1ブロック、ガマルスなら2匹で8個ぐらい)与えれば充分です。
水換えは、餌を大量にやっていない限り、一ヶ月に一回半換水もやれば充分です。水質悪化にも水質変化にもそれほど敏感ではありませんが、極端に温度の違う水を入れたり、長期間水換えをサボっていて急に全換水などは避けましょう。
○繁殖
亜成体(完全に陸棲で水には溺れる)の期間が2〜3年ぐらいあるらしいので、難しそうです。
また、冬場に冬眠をさせないと翌春、繁殖行動を起さない様なので、冬場の管理が変わってきます。
自然界の生態系破壊につながることもありますので、安易な繁殖だけは避けましょう。
要するに自分で(30年ぐらい)飼い切れるか、あるいは信頼できる里親を確保してから繁殖に挑戦してください。

注意点

●よく似た生き物でも、飼い方は全く違います
例えば、ニホンイモリとカスミサンショウウオは見た目も似ていますし、系統分類学的にも親戚の様な生き物ですが、飼い方となると全く違います。イモリがこれほど簡単に飼えるのに、カスミサンショウウオは他の生き物と比べても特に難易度の高い生き物(但しサンショウウオの中では特に難易度が低いのですが…)で、そもそも陸棲ですし、環境の悪化にも敏感で、夏場の高温にも弱く、餌も適当に放り込めば食べるというようなことはありません。
生き物は、似ている、あるいは分類的に近いからと言って、同じ飼い方で飼えるということはありません。
脊索動物門 > 脊椎動物亜門 > 両生綱 > 具尾下綱 > 有尾目(サンショウウオ目)>
・イモリ亜目 > イモリ科 > トウヨウイモリ属 > ニホンイモリ
・サンショウウオ亜目 > サンショウウオ科 > サンショウウオ属 > カスミサンショウウオ
●過密飼育は厳禁
イモリ(成体)の様に、共食いの危険も低く、滅多に喧嘩もしない生き物でも、30センチ水槽に2、3匹程度が限界です。たくさんの生き物を入れると、それだけ餌の量も増えるため飼育環境の悪化が早く、また餌の奪い合い等で思わぬ事故が起こる可能性があります。
自然界で群れているからといって、飼育下でも群れさせられるということは(どんな生き物でも)あり得ません。
●小さすぎる容器では単独飼育でもダメ
フラワーベースなどの小さな容器ではイモリでも飼えません。(そもそも脱走するし)一般に飼育ケースが小さくなればなるほど、外気温他の変化の影響を受けやすく、難易度は高くなります。また隠れ家等の飼育に絶対に必要なものも小さな容器には入れられません。
●薬品・化学物質・重金属の混入は避ける(生体はもちろん器具にも色を塗るな!)
解説は省きます(^_^;)
●食品由来でも余計なものを入れない(食品由来でも石鹸で洗うな!)
酢やアルコールは食品です(~_~;)
●可能なかぎり素手では触らない
イモリはテトロドトキシンを持っています。またサルモネラ菌等の常在菌が飼育容器内に繁殖していても不思議はありません。生き物を触った後は手を洗うのは常識です(サルモネラ菌を持ってるから飼わないように通達を出すとか、慌てて捨てるとかは非常識)。
じゃ、なくて(^_^;)
人間のような恒温動物の掌の温度と、変温動物(冷血動物)の体温には極端な温度差があります。また掌には汗やその他の(小さな生き物にとって)有害な物質が付着している可能性があります。僅かでもダメということはありませんが、止むを得ない場合以外は出来るだけ触らないようにしましょう。
●放逐厳禁
まさか「飼えなくなる」というのはないでしょうが、飽きたから、あるいは増えたからといって(購入個体を)そこら辺に逃がしてはいけません。既にあちこちの池や沼で地域個体の特異性が失われているイモリですが、まだ純粋な天然個体群も残っていますから、護りましょう。

その他、イモリに関する蘊蓄はデカペディアのイモリ/ニホンイモリをご覧ください。
シリケンイモリに関する蘊蓄イモリ/シリケンイモリもあります。