某所で、そろそろ繁殖期に入るニホンイモリを観察してきました。
標高●●●mにある“鏡のように美しい”ことで知られたダム湖。その流れ込みにあたる泥濘化した狭い湿地に、細々とニホンイモリの繁殖地があります。
湖の方にもイモリが棲んでいたかどうかは不明ですが、棲んでいたとすれば既に絶滅しているでしょう。○年前にトラウトの管理釣場がオープンしたので、今は(有料釣客以外には)入ることが出来なくなっています。昨年辺り、管理区域外にも柵が立てられてしまい状況確認さえできなくなってしまいましたが、柵外から見てもブルーギルがウジャウジャいるので、イモリが棲み続けているとはとても思えないのです。
尚、ここのブルーギルは、(トラウトの餌として重要な位置を占めている様ですが)意図的に餌として導入されたものなのか、(全国何処でも見られるように)商業的有用魚の放逐放流に混ざって分布を拡げたものなのか、(ブラックバスほど人気はないけど)バサー等によって無法リリースされたものなのかは判りません。
もちろん自然分布ではないでしょう(^_^;)
真冬には、湖面が氷結する様な場所でブルーギルが繁殖しているという(サンフィッシュの仲間は冬に雪が積るような所では繁殖しないというガセを、未だ信じている方には特に)世にも珍しい光景ですから、いっそのこと世界遺産に登録申請してみてはどうでしょう。
はっきりいって狭い水溜りです。水面の長径が2mあるかないかの。そして、汚いとまではいわないものの、お世辞にも綺麗な水ではありません。そうした水溜りに、雌雄のイモリが群れていました。
深さは、6〜70cmといったところでしょうか。
ここが繁殖場所だと思う(というか他に落ち着いて求愛ディスプレイのできそうな場所はない)のですが、実は私、この周囲で幼生を見たことがありません。
それに、いつ行っても、この水溜りに雄と雌がウロウロしているので、ここで繁殖していたら幼生は全部、親に食べられてしまわないかと(^_^;)
もっとも、湿地自体が泥濘化していて、またマムシが棲息しているので、隅から隅まで見回ったことがあるという訳でもないです。そもそも下手に移動すると幼体(亜成体)を踏み潰してしまう危険もありますし(^_^;)
雄は、既に婚姻色が出始めているものもいましたが、まだ出ていない雄も見られました。これから繁殖の最盛期を迎えるといった感じでしょうか。
下の写真。顔や腹部の側面下部が紫がかっているのが判りますか。耳腺もよく膨らんで、顔が角張っています。総排出口も出っ張って、なかなか良い男振り(?)
ちなみに、下は雌の写真。こっちは婚姻色が出ないので、繁殖モードに入っているのかどうか、よく判りません。
非繁殖期でも、たっぷり食った個体は、腹が妊婦の様に膨らんでいるし(^_^;)
右は、上記とはまた別の雄ですが、下から見ると耳腺やアゴの張り具合がよく判ると思います。
おたふく風邪みたいですね(^_^;)
繁殖期・普段の別なく雌のイモリは、どちらかというとオットリしていて、脱皮時や、餌を食べるとき以外には暴れることもないのですが、雄は普段でもかなり活動的です。
繁殖期の雄は、更に活発になる様で、撮影の間も少しもジッとしていてはくれませんでした(^_^;)
とにかく逃げようと必死で暴れ回るので、この様なオトボケ写真が撮れてしまいました。
雌のいる場所なら、例え火の中水の中。渓流域の激流も物ともせず遡ってくるためでしょうか、雌よりも指が長く力強いです。飼育下でも雄は脱走の危険が特に大きいので、注意が必要です。垂直に近い壁でも器用に登り、ちょっとした隙間でも押し広げて脱走しますので…。
もちろん、この雄は撮影後、愛しい雌の待つ水溜りに戻してやりました。雌に受け入れてもらえるかどうかは、私の責任ではないので、君、頑張りたまえ!
前項の水溜りだけではなく、そこから細々と流れ出す水路の至る所に、イモリが潜んでいました。意外に強い流れのある場所なのですが、物陰や流心から外れた岸辺近くなどを這うように進んでいる個体にも、何匹か出会えました。
雄も雌もいましたが、雄には婚姻色が出ていない個体が多かったので、ひょっとするとまだ若い個体なのかな?
それとも、繁殖場所に向っている途中の雄や雌と、産卵場所に向っている雌だったのでしょうか。
おっと、ここで今さら補足します。同じ両生綱有尾目で見た目も似た者同士ですが、イモリ亜目の生き物はサンショウウオ亜目の生き物とは違って、繁殖方法は体内受精です。交接器官を持たないので交尾はしませんが、受精場所と産卵場所が離れていても大して不思議はありません。ですから、この場所も夜に来てみれば、繁殖行動や産卵行動なども見られるかもしれません。
ただ私なら、夜は恐くて絶対に行けない(~_~;)
どこにマムシが潜んでいるか全く判らない上に、確実にマムシはいるので。アチコチに鹿の糞が落ちているような山奥だし、イノシシもウジャウジャ。たまに熊も出るみたいです。
要するに、採り子の方は「ご注意を」と…。
そもそも、そんな危険を冒してまで採っても、そうそう高く売れる生き物でもないですよ。何処ぞで大量に漁って数十匹単位でオークションに出している方も、たまに見掛けますが、30年近く(あるいはそれ以上)生きる物を、そんなたくさん飼いきれやしませんって(^_^;)
業者向けのロットとか?
ペットとしての歴史も古い生き物ですからね。「千匹に一匹の…」とか「数千匹以上見てきた私も初めて見ました」とかいう、お得意の詐欺紛い商法は、最早、業者相手でも個人飼育家相手でも、「ノークレーム・ノーリターン」が通じるほど甘いとは思えないのですが、ご苦労様なことです。
尚、この場所のイモリも減っていない訳ではないので、一度、大量に採ってしまったりすれば、次の年からは商売上がったりですよ。今年、産まれた幼生が“商品として売れる=成体になって水棲になる”までには、少なくとも2、3年はかかるということも、一応、教えておいてあげましょう。
と、イヤミ牽制はこのぐらいにしておいて、「至るところ」とは言ったものの、繁殖期ということを鑑みれば、この地のイモリの個体密度は非常に少ないです。以前に比べれば激減と言ってよいぐらいです。
これは、近い将来の危惧として(希少性が高まるのに比例して引き起こされる)乱獲による壊滅はありえますが、今のところ採集圧によるものではないでしょう。
なぜなら、全国的に分布域が狭まっているとはいえ、棲息地にさえ行けば、普通は気味悪いぐらいウジャウジャと湧いている生き物です。飼育放棄によって我国各地での地域個体群の固有性が失われつつあっても、「棲息地での個体数の激減」の理由にはなりえないからです。
では、理由は何か。もちろん私には想像もつきませんし、また、トラウトやブルーギルの大量移入とイモリの激減との因果関係を証明することもできませんが、数年前に比べて、確実に棲息(繁殖)環境や分布可能な諸条件が悪化しているということだけは目で見て判ります。
いや、私は実際、この後の梅雨によるこの湿地帯の増水を本気で心配しています。少なからぬ成体・幼体・幼生が、すぐ下流の湖に流されることでしょう。
イモリの成体は体にテトロドトキシンを持ち、敵に襲われると耳腺から毒を出します。相手を殺すほどの量でないとはいえ、大抵の生き物にとっては苦味が強くすぐに吐き出すそうで、移入種のトラウトやブルーギルの遺伝子にイモリを忌避する記憶が刷り込まれているかどうかは心許ないものの、生き残れる可能性は高いと思います。
ですが、湖に流されてしまった幼生(幼体はその時点で溺死するかな?)は、確実にトラウトかブルーギルの腹に収まるでしょう。
寿命の長い生き物でもあるため、ここ最近、ちゃんと世代交代が行われているかどうか本当に心配です。「今数匹いる」からといっても、実は「既に野生絶滅」している可能性も高いからです。
湖の観察は、物理的にできないこともあり、する気も失せて久しいので、湖から流れ出す渓谷の方へも行ってみました。この渓谷は□□□□に指定されていて、下流にはオオサンショウウオも棲息しています。オオサンショウウオ棲息地の上流にブルーギルが繁殖しているという世にも奇妙な光景は…って、ちょっとシツコイですね(^_^;)
私は、ちょうど10年前の同時期に、この渓谷に来たことがあります。その時は、激流を物ともせず、あちこちの澱みや岩の陰などに「これでもか!」というぐらいイモリが張り付いていたのですが、さて…。
って言うか、みっ・見えない(~_~;)
10年一昔と申しますが…などと黄昏ている場合ではありません。水の透明度が悪化しすぎ。しかもクサイ。昭和50年代都市近郊住宅地の汚水マンホールの穴から、こんな臭いがしてましたっけ(~_~;)
こんな渓谷でも、□□□□に指定されているだけはあって散策路があります。そこを登ってくる観光客の方が、「綺麗だねぇ」などと話しています。
いや、別に観光客の鈍さを揶揄しているのではありません。
実は、この散策路は■km下流がスタート地点になっていて、“水は三尺流れれば清し”ではないですが、上に来るまで徐々に嗅覚が馴化されていくというカラクリがあります。また、××××××××××××××に選ばれているほどの景色を、観光客は楽しみに来ているのですから、流れに目を凝らしたりはしないでしょう。岩の下などの伏流水に溜ったソフトクリームの様な白い泡に気付かないのも当然です。
でも、下流のオオサンショウウオは大丈夫なのでしょうか。三尺といえば、約1mですから大丈夫なのか。そういう問題か?
もちろん、これまた管理釣場と水質悪化の因果関係については不明です。
ただ、一昨年の秋は、この渓谷と言わず、湖と言わず、この周辺一帯に強烈な屍臭が漂い、湖やその周囲の水路などに、目の飛び出した瀕死のトラウトや死骸が漂っていました。猛暑の影響によるレアケースだとは思いますが。毎年あんな大量に有料の魚を廃棄消耗していたのでは、管理釣場も経営が成り立たないでしょうから。
で、渓流域はともかく、ダムの堰堤下にようやく2匹の雄のイモリを発見することが出来ました。
しかし、このイモリたち、この後どうするのでしょうね。10m以上落差のある堰堤は、とても登れないでしょうし、 万が一にも登ったら、各種外来肉食魚がウヨウヨ待ちかまえています。雨の日などに陸地を迂回して繁殖地へ行くにしても、直線距離で200m以上、標高差も相当ありそうです。
周囲の林間で、小さな水溜りでも探してお茶を濁すのかな? 近くにモリアオガエルの繁殖池もあるらしいので、そういうところでは悪者扱いされてしまうのでしょうか。ちょっと切ないですねぇ(TOT)
イモリなんて、そんな俊敏に動けないんだからさ、モリアオガエルの卵隗の下で待ってたって、オタマジャクシの捕食率低いと思うんだけどなぁ。貪食なイメージを持たれてるけど、代謝も低いんで魚に比べると物凄ーく食べる量ちょっとなんだし。苦労して登ってきたものの、効率の良い繁殖方法を断念した連中なんだからさぁ…。
少しは、暖かい目で見守ってやって欲しいんだけど。
注:本文中に一部、誤植があります。正誤表はMLで配付しています。
その他、イモリに関する蘊蓄はデカペディアのイモリ/ニホンイモリをご覧ください。
シリケンイモリに関する蘊蓄イモリ/シリケンイモリもあります。