十脚目通信

オカヤドカリの生態について

当コンテンツは常設&移動水族館「魚はいません」設立計画の趣意に基づいたナチュラリスト向けの観察と飼育のコンテンツであり、ペットコンテンツではありません。

オカヤドカリはオカヤドカリの飼い方で。犬や猫と同じ様に扱っては絶対にダメです。

生態1:生態については解っていませんか?
オカヤドカリとは一般にオカヤドカリ(Coenobita cavipesコムラサキオカヤドカリ(Coenobita violascensムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureusナキオカヤドカリ(Coenobita rugosusオオナキオカヤドカリ(Coenobita brevimanus等を含むオカヤドカリ科(Coenobitidaeの総称です。
熱帯から亜熱帯に棲息する陸棲の甲殻類で、陸棲とは言え甲部のエラで呼吸しています(宿貝中の湿った尾部で皮膚呼吸もしています)。
水に浸けても溺れることはありませんが、エラが乾くと死にます
食性は植食性の強い雑食で、熱帯性海岸樹林内で落ち葉や木の実(フルーツ)などを常食していますが、時々、海岸などへ降りて動物質の餌を漁ります。
寒さには弱い生き物で、最北限の棲息地の、最も寒い時期の平均気温が17度強といったところですが、比較的暖かい地方(冬に雪が降る様な場所でも)であれば、寒暖差の少ない暖かく湿った場所に潜り込み、複数年冬を越して生き延びていることもあります。
普段の生活場所は森の中ですが、ゾエア〜グラウコトエの幼生の期間は海でプランクトン生活を送るため、海から離れた場所では子孫を残すことが出来ません。
オカヤドカリは甲殻類ですから、エビやカニと同じく成長により脱皮を繰り返し大きくなりますが、ヤドカリ特有の宿命として背負っている貝は殻なので、体に合わせて大きくはなりません。
そこで体の大きさと形状に見合った貝殻を見つけ引越しを繰り返しますが、住宅事情が悪いため、貝殻に合わせて自分の形状を変えることもあります(形状を変えるには脱皮が必要)。
オカヤドカリの棲息場所
この写真内にはオカヤドカリが多数棲息しています。手前の白砂の部分ではなく、後背に見える熱帯性海岸樹林(地面は砂ではなく土です)や、砂浜との境目や倒木の下、立っている木の根元、木と岩の隙間や洞などに多数のオカヤドカリがいて、互いに居心地の良い場所(適度に乾くでも湿るでもない場所で、風や雨や日差しの影響を受けにくく温度や湿度の急変のない場所)をめぐって“ゆるく”争っています。
この海岸樹林は、海岸樹の落ち葉や実、またそういった葉や実の朽ちたものに覆われ、オカヤドカリはそれを常食しています。もちろんジッと落ちてくるのを待っているだけではなく、木に登り新鮮な葉を食べることもありますが、植食性の強い雑食性のオカヤドカリにとって、植物質の餌は、この樹林でほぼ賄えているものと思われます。
また、こういった樹林中は、植物の葉から蒸散する水蒸気で、朝夕などは湿度が高く、また雨水溜り(真水)等も方々に生じるため、呼吸だけではなく生命維持に必要な水分補給にも有利な生活場所だと言えるでしょう。
ところが動物質の餌は、オカヤドカリが棲みやすく安全な海岸樹林に居続けていては、滅多に獲得することが出来ません。死んでしまった仲間の死骸を食べるか、脱皮中あるいは脱皮直後の、柔らかくて食べやすく動けない仲間を無理やり死骸にして食べる他には、ほとんど手段がありません。
但し、この方法も飼育下ならともかく、天然下で脱皮場所を充分に確保できるオカヤドカリが、むざむざ仲間に食べられてしまう様なヘマを犯すことなど滅多になく、必然的に動物質の餌を得るためには、海岸の砂浜に危険を冒して出て行かざるを得ないというのが現実です。
マスコミによる影響なのか、オカヤドカリは砂浜をウロウロしているイメージが強いのですが、この様に特別なことがない限りは砂浜をウロウロしていることはありません。特別なこととは、
  1. 大潮の夜(満潮時)に卵を抱えたメスのオカヤドカリが、大挙して波打ち際に押し寄せ、海にゾエアを放出する場合
  2. オスがゾエア放出後のメスを捕まえ、無理やり交尾を行おうとする場合
  3. 干潮時に(満潮時の)波打ち際だったところへノコノコ出掛けて行き、住居である貝殻や、打ち上げられた魚の死骸等の餌を探す場合
  4. 特に脱皮前後など、必須ミネラル補給のため海水を補給しに行く場合
  5. 本当は砂浜をウロウロしたくないんだけど、居心地の良い場所では大人たちが頑張ってるので、仕方なく砂に潜り始める場合
  6. 海から上がってきたばかりの稚ヤドカリ(グラウコトエ)で、まだ棲息場所に到達できない場合
等で、3のケースでは、魚の死骸等だけではなく、残念ながら海岸に漂着した様々なゴミや、人間が残していった残飯等が動物質の餌となっている様ですが、もちろんポップコーン等のスナック菓子を特に好んで食べるということはありません(食べてもほとんど空気なので害も益もないですが)。
夏の、日差しの強い砂浜は、大抵の生き物にとっては灼熱地獄であり、エラ呼吸の甲殻類にとっては特別に避けたい場所でもあります。オカヤドカリは海棲の甲殻類に較べるとエラが陸棲に適応しつつあり、また貝殻中に(呼吸のための)水を貯めておけるため、短時間なら耐えることができるのですが、それでも特別な場合でない限りはノコノコ砂浜を歩く習性はありません。
ちなみに貝殻の中の水は、海水と真水の混ざった薄い塩水(えんすい)であることが知られ、水に食塩を溶かした塩水(しおみず)で代用することはできません。
オカヤドカリよりも更に古い時代に陸に適応し、エラがほとんど肺呼吸に近い機能を有する様になったヤシガニでさえ、昼間の砂浜をうろつくことは、まずありません。
また鳥や小動物、人間等、外敵の多数いる昼間のビーチなどをうろつく習性を持っていて、それでも生き残ってこれる程の強い武器(例えば毒など)を、オカヤドカリは獲得していません。
一般にオカヤドカリは夜行性などと言われ、沖縄など南の島で、朝、まだ人の少ない時間に散歩をしていると砂浜に独特の足跡が付いているのを見かけますよね。
アダン林などからトコトコ出てきて、海辺まで行って、遠回りして戻っていく途中で、何だかしばらく佇んだ後、全然違う場所へ戻っていったなんていう微笑ましい足跡をご覧になった方もおらるかと。
実際には、オカヤドカリの行動を決定するセンサーは、昼夜の別ではなく、潮の干満によるものであり、夜行性という言い方は正しくないのですが、諸事情により夜の方がよく動き回っていると言うことはできるでしょう。
以上、オカヤドカリの生態について簡単に紹介しましたが、オカヤドカリを飼育する上で必要となる情報を以下に補足しつつ、まとめてみます。
  1. 沖縄や奄美、小笠原などを除く我国各地では、ヒーターなしでは飼育することはできません(ピンポイントで一部分だけが温まるタイプのヒーターは厳禁!)
  2. 棲んでいる場所は砂地ではなく土の地面(但し飼育する上では土は管理しにくいので、やや湿った砂で代用する)
  3. 生命維持に必要な真水は、樹林中の水蒸気や雨水などから直接補給する(飼育下で植物を植えた程度では水蒸気は発生しないので、また霧吹きの水滴と水蒸気は違うので、容器に常に新鮮な真水を入れておく)
  4. 主にエラ呼吸で、水に溶けた酸素を取り込んで呼吸しているので、乾くと死ぬ
  5. 湿地に棲んでいる訳ではないので、ビショビショの飼育環境は嫌がる
  6. 餌は植物質のものと動物質のもの。ほとんどは天然に存在するもので、人間の残飯等で代用可能(食品添加物が入っていなければ尚可)
  7. 脱皮前後に充分に隠れられる場所がないと、仲間に食殺される可能性が高い
  8. 普段から静かな環境を好み、基本的には隠れて生活している
こんなところでしょうか。
生態2:オカヤドカリの脱皮は命懸け に 続くかもしれない

オカヤドカリ飼育に関するFAQ」と「オカヤドカリ飼育に関し、判明している事実」もご参考に。
ネット上に飼育情報が氾濫していて迷っている方は「オカヤドカリのトンデモ飼育法」をご参照ください。

ヤドカリ・オカヤドカリに関する蘊蓄はDecapediaをご覧ください。

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