カニ/ベンケイガニ のバックアップ(No.26)


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[編集]ベンケイガニ(Sesarmops intermedia

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海岸近くの森や崖、干潟や河口の泥地など、海辺では最もよく眼にする陸棲のカニ。アカテガニに比べると海水への依存度が高く、海から遠く離れた場所で見掛けることはあまりない。ペットショップ等で「アカテガニ」といって売られているものは、(海=カニという感覚でいる分には採取場所が特定しやすく、また採取業者等が活動する夜に捕獲しやすいためだろうか、)ベンケイガニであることが多い。
体全体がオレンジ色がかった派手な赤いカニだが、アカテガニに比べると鉗脚の赤味は薄い。
本来は海岸の森に穴を掘って棲み、写真の様に岩から湧水が染み出している様な場所や、雨水が海に流れ込む様な水路には、かならず本種がいるのだが、都会ではこういった場所が減っているためか、河口の泥干潟や人工の石垣にも細々と生存している。
食性は植食性の強い雑食で、照葉樹の森で落ち葉等をよく食べているが、死んだ魚や昆虫、小動物等も食べているものと思われる。自然下ではアカテガニよりも生臭い場合が多く、またフナムシを捕食しているシーンもよく目にするので本種の方がやや肉食性が強い様だ。

ペットショップ等では、サワガニと同じ扱いで薄く水を張った容器でキープされていることが多いが、実際には陸棲傾向が強い。自然下でも陸地をウロウロしていて、採餌も主に陸上で行う。水が必要なのは呼吸に際してと、脱皮の際。
口器の横に溝があり、その溝と脚の付け根に取水孔のある鰓の間を水を循環させて呼吸している*1が、水が古くなってくると粘ついて呼吸しにくくなるため、体ごと水の中に入り新鮮な水と交換する。即ち口から泡を出している時は呼吸が苦しくなっている。
脱皮は完全に水の中で行う。大きさにもよるが、成ガニで年に一回程度。数分で脱皮を完了するが完全に体が固まるまでには1日ほど掛かる。その間はソフトシェルクラブの状態で非常に無防備なため、飼育するなら単独飼育が原則。
飼育下ではニンジン、リンゴ等をよく食べる。時々ザリガニ・ヤドカリの餌等を与えてやる。
飼育環境はオカヤドカリに似る。砂を敷き流木等を配してやると良いが、体が大きいのでオカヤドカリよりも更に大きく深い水場が必要。また脚が長く体が平べったいので脱走が上手く、ピッタリと閉まるフタが無ければ飼育は不可能。

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[編集]参考情報

アカテガニの甲部(左)とベンケイガニの甲部(右)

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本種の甲外縁には鋭い切れ込みがある。甲表面もゴツゴツした感じで、鉗脚内側(手首の様な部分)に鋸条(ギザギザ)があることでも見分けられる。
実物を見ると、明らかに姿形が違うため、両種は簡単に見分けが付くのだが、写真等で「このカニは何ですか?」と聞かれると見分けるのが非常に難しい。角度や光の加減によってはアカテガニの甲部がゴツゴツしてみえることもあり、ベンケイガニの甲部がツルツルして見えることもある。
甲部を上から撮った写真の場合、甲外縁の鋭い切れ込みに注目、斜めから撮った様な写真の場合には、鉗脚内側の鋸条の有無で見分けると良いだろう。


[編集]棲息環境

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海岸林の木の根元等に穴居する。同じ様な場所にはアカテガニも棲むが、本種の方が海水(塩分)への依存度が高い様で、海から離れるに従ってアカテガニの方が隆盛となる。
警戒心はアカテガニより強い様で、日の高い内にはなかなか姿を現さない。アカテガニの様に道端をノコノコ歩いている様なこともあまりないのだが、森の中や雨上がりの草叢等では、たまに昼間でもウロウロしていることがある。どこから迷い出たのか、海近くのキャンプ場で炎天下の芝の上を駆け回っている本種の姿には心が和む。

写真は南紀某所の個体で、他の棲息地でみるベンケイガニに比べると赤味が強い。遠くから見るとアカテガニと見分けがつきにくいが、鉗脚の先の白い部分の面積が大きいことで本種と判る。

クロベンケイガニをベンケイガニとし、本種をアカベンケイガニとする記述が時々見られるが、これは商品名としてのインボイス、または観察者や飼育者の便宜的な呼称である。
クロベンケイガニはベンケイガニ科アカテガニ属、本種はベンケイガニ科ベンケイガニ属なので、黒いベンケイガニと赤いベンケイガニという理解の仕方はあまり本質を表しておらず、また、時季にもよるが、クロベンケイガニアカテガニは同所的に見られることが多いが、そういった場所での本種の個体数は偶来と言ってよいレベルで少ない。
逆に本種とアカテガニも同所的にみられることもあるが、そういった場所でのクロベンケイガニの数は少ない。
この3種は繁殖期を除き、

  • ベンケイガニ=海岸林、山が海に迫っている様な崖や石垣、河口の泥地など。
  • アカテガニ=海岸林~森、河口域の森林など。
  • クロベンケイガニ=海に流れ込む水路や河口域の干潟や護岸、下流域(時に中流域まで進出)の護岸や田圃など。

が、主な棲息域になる。



[編集]飼育について

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半水棲の、例えばクサガメやイシガメの様に、水を張り上陸用の石を置いた様な飼い方がイメージされがちだが、ベンケイガニは基本的には陸地で生活するカニなので、図の様な飼育環境が望ましい。
陸棲とは言え、鰓呼吸なので鰓が乾くと死んでしまう。そのため、カニが体ごと浸かれる水場が必要。また脱皮も水の中でないと行えないので、大きめの水場を常に新鮮な水で満たしてやると良いだろう。
また、水は海水ではなく淡水で良い。時々、ごく薄い人工海水を与えるのも良いだろう。
この水量では濾過装置を使っても生物濾過の効果は期待できない。またコンセントのリードやホース等は脱走の足掛かりになりやすいので、水を定期的に換える方法が飼育しやすい。
魚や水棲のカニの様に、水の中で採餌・呼吸・排泄を行う訳ではないので、水はそれほど汚れることはなく、1週間~2週間に1回程度の換水または足し水でキープは可能。
但し、砂は汚れるので定期的な砂の洗浄や交換が必要。筆者は乾いた砂をストックしておき、1ヵ月に一度程度、表面の砂を新しいものと交換している。(取り出した砂は洗って乾かし、ストックしておく)

飼育匹数は、1ケースに1匹が安全。
60cm水槽で、脱皮用の水場を複数設置する、隠れ家を多く設ける等工夫して小型の個体を2,3匹程度なら同居させられるが、1~2年ですぐに大型化する上、脱皮時に水場で食殺された死骸の悲惨さ(臭いもかなりキツイ)はトラウマになるレベルなので、きめ細かく、脱皮の兆候を見逃さず日々のケアができる人か、死骸の姿や臭いにショックを受けないタイプの人にしかお薦めできない。



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*1 甲の側面が網目状になっていて、ここで効率よく酸素を取り込みながら水を取水孔に送り込んでいる