カニ/サワガニ のバックアップ(No.24)


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[編集]サワガニ(Geothelphusa dehaani

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青森から屋久島にかけて分布*1*2する我国の固有種。最も身近なカニと言えるが、実は発生段階を含め一生を淡水で終える純淡水性のカニは、カニの中では特異な存在。他のカニに比べると行動範囲が狭く、そのため地域個体の固定度が非常に高く、棲息地域によって様々な色や形態的な多様性を持つ。
名前の通り、山の沢に多数見られるが、里山の田圃の畦等でもよく見られる。冬期は畦に穴を掘り冬眠していることも多い。稚ガニ〜亜成体の期間は沢の転石の下に棲んでいるが、写真の様な大型の成体になると陸棲傾向が強くなる。アカテガニの様に水から離れることはないが、沢伝いにかなり広い範囲まで移動することがある。
特に雨の日等は、沢から離れて歩きまわることも多い。
BOD*3の低い水に棲む生き物であるため環境指標動物として顕著。

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[編集]飼育について


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ペットショップで目にする機会も多いが、都会の住人にとっても少し足を伸ばせば(精々車で数十分)見ることのできる身近なカニなので、できれば採取によって入手して欲しい。特に“どこの馬の骨とも判らない購入個体の放逐”は、数万年(数億年?)に渡って受け継がれてきた(地域固定)種を、一瞬にして消滅させることになるため、厳に慎んで欲しい。
飼育方法に関しては、バケツに砂利を敷いた様な環境でも暫くはキープできるために簡単だと思われがちだが、Phやや高めの清浄な低温水を好むため、実は長期飼育の難易度は高い。秋〜初夏にかけては簡単に飼えるものの、夏場に30℃を超える様な環境ではすぐに弱る。脱走の名人であるため、水槽等の飼育ケースにはピッタリと閉まるフタが必要で、そのため通気性も悪くなり、夏場には思った以上に水温を上げてしまい死なせてしまう場合が多い。何らかの冷却装置、特に水槽用クーラーがあれば長期飼育が可能。

他のカニに比べると共食いの危険が少ないため、大きめの飼育ケースと充分な隠れ家(兼陸地)を用意してやれば混育も可能。但し脱皮直後に他の個体に襲われて食殺される可能性を排除することは不可能。また飼育下での繁殖は難しい(後述)。
飼育匹数としては、90センチ程度の水槽に♂1匹と♀4、5匹ぐらいが適当だろうか。底に砂利を敷き、流木や石などを多数組む。流木に苔等を植えると特に雰囲気が出て面白い。夏場にはクーラーが必要。かなりの大食漢なので、充分な餌が必要。工夫次第では、60センチ水槽程度で、またクーラーはなくても飼育できるが、流木にウイローモス等の苔を生やす様な美しいテラリウムは諦めた方が良い(密閉+照明は水槽内が40℃を超えることも珍しくない。苔や水草も枯れるが、それより先にサワガニが死ぬ)。
筆者は、底面30センチ程度の縦長水槽で複数年飼育したことがあるが、夏場、水温を下げるのに(我ながら)涙ぐましい努力をした憶えがある・・・。

サワガニといえば、ファミリーでピクニックやキャンプに行った際の、子供の格好の遊び相手になる。子供が「家に持って帰りたい」と言い出すことも多いと思われる。
その場合、特に大規模な飼育設備を使用しなくても、単独または雌雄一匹づつ程度なら、プラケースで飼育することが可能。下手に濾過装置等を使用するよりは、少なめの餌と頻繁な水換えにより水質を維持する方が飼育しやすい。
この状態で1年以上飼育していると、恐らくは日々の世話が面倒になり、特に子供は飽きてしまうかもしれないが、それはそれでしょうがないのではないだろうか。世話が疎かになり、生き物を死なせてしまうことは残念なことではあるが、生き物に全く興味を持たず大人になるよりは随分とマシな人間になるだろう。
但し、間違っても「飼いきれなくなったから」と言って、野外にリリースしないこと。何億年にも渡って地域個体群として固定されてきた種を、親の身勝手な自己満足のために絶滅させてはいけない。

[編集]繁殖行動


初春〜初夏にかけて雄と雌が水中で交尾を行う。飼育下でも容易に交尾を行う。脱皮直後の雌を雄が捕まえて抱え込み、腹を合わせて抱き合う様に交尾をする。飼育下ではこれが問題で、大抵の場合は交尾中に雌が弱って死んでしまう。無事交尾に成功しても、直後に雄が雌を食殺してしまうことが多い。
交尾成功後、雌は自分の尾の内側(通称フンドシ)に産卵する。卵は他のカニとは違い大卵型で孵化時点でゾエアではなく稚ガニの状態で産まれる。雌は沢の転石の下で稚ガニを抱いて凄し、かなり大きくなってから放仔する。このため交尾にさえ成功すれば飼育下でも他のカニより容易に繁殖させることができる。
但し稚ガニは、親ガニに比べても特に水質の急変や悪化に弱く、また高水温にも弱く、難易度は高い。

[編集]サワガニの北海道分布説


サワガニの分布は、本来我国の青森県以南であり、北海道には分布しないとされていたが、移入によってサワガニの分布が北海道にまで広がっているという情報が一般化しつつある。
Wikipediaでは、[要出典]としながらも、「日本固有種で、青森県から屋久島までの分布とされていたが、21世紀初頭の時点では北海道にも少数ながら分布することが判明した」と記されていて(2009年8月現在)、サワガニについて扱ったWebサイトやBlogに多数見られる「サワガニ北海道分布説」の情報源となっている様だ。

移入種を分布と呼ぶかどうかはさておき、どうやらこれらの大元の情報源は「第3回自然環境基礎調査(1989)で、北海道南部での生息がはじめて確認され、身近な生き物調査(1990)でほぼ北海道全土から生息が報告されています」という環境省の発表の様で、同じく環境省系の様々なサイトで、「北海道には本来分布しませんが、近年、移入され、生息が報告されています」と記されている。
本来棲息しなかった土地に、別の生き物が移入されるということは大変なことであり、特に環境省は、この様な場合、移入の経緯を明らかにすべき省庁でもあるのだが、追跡調査を行ったのかどうかハッキリしない。

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あるカニの専門家によると、この基礎調査や生き物調査以外に「北海道でサワガニが発見された」という明確な情報が全くない*4らしく、ひょっとするとモクズガニと見間違えられたままサワガニと報告されているケースが、ほとんどではないかとのこと。
筆者もサワガニの棲息しない某地域の渓流で、サワガニと同様の生活形態を採るモクズガニの幼体らしいカニ(左写真)を目撃したことがあるので、この話しには納得が行く。
そもそも北海道の方からすれば、本来分布しない=ほとんど見たことがないサワガニを、モクズガニの幼体と見分けるのは、至難の業ではないだろうか。

特に誰かが悪いとか、今さら20年も前の調査をやり直して訂正せよと言う訳ではないが、今現在、北海道でのサワガニの棲息情報が明確でない以上、このWikiでは「サワガニは青森県以南に棲息」という立場をとることとする。


[編集]青いサワガニ(BL)


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サワガニの体色は大きく分けて赤褐色の甲にオレンジ色の脚をもつRE型(Red)、全体的に茶褐色~暗紫色のDA型(Dark)、青い甲に白い脚をもつBL型(Blue)の3型に分類されている。
食用で流通するものや、その2次ルートのペット流通で見掛けるものがRE型であるため、サワガニと言えばオレンジ色のカニというイメージがある。
そのため、インターネットの黎明期には、青いサワガニ=珍しいという一般認識があり、ネットオークション等でもレア物として扱われようとしたことがあった。
しかし、サワガニの青色個体は、他の生き物の様に、低い確率で発生する色変個体ではなく、また、カロチンの含まれない餌を与え続けて後天的に青い体色にしたものでもなく、遺伝的に固定された地域個体群であり、青いサワガニの棲む水域に行けばワラワラいるとう認識がネットを通じて拡散し、レア物業者の野望は頓挫した。

関東南部(房総、相模)のサワガニは、ほとんどがこのBL型であり、逆に赤いサワガニの方が珍しいという(房総では青いサワガニのことはシミズガニと呼ばれているそうだ)。

とは言え、よく調べもせずに「珍しい生き物を飼いたい」という需要は一定程度存在するので、ペアで購入し、累代繁殖させれば小遣い稼ぎぐらいにはなるかもしれない。
但し、サワガニが性成熟するには2年以上の年月が必要で、しかも稚ガニを養殖するには清浄で低温の環境を維持しなければならないため、コストに見合うとは思えない。
安定生産させるのは100年単位の事業となるため、「青いサワガニで小遣い稼ぎ」を目論む飼育者が現れれば、むしろ応援しても良いぐらいだ。

[編集]関連記事

カニ/アカテガニ


[編集]関連リンク

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*1 本来は北海道には分布しないとされ、近年発見されるものは人為移入とされている様なので分布からは外した。近年の北海道での発見報告自体についても異論が存在する。
*2 トカラ列島の中之島がサワガニの南限とされているが、中之島、口之島に産するものは新種または未記載種の可能性がある。
*3 Biochemical Oxygen Demand=生物化学的酸素要求量=バクテリアが汚れを分解するのに必要になる酸素の要求量
*4 専門の研究機関等に検体が持ち込まれたことも、発見が報告されたこともないらしい。また移入・放逐の記録はある様だが越冬できなかった様だ。