カエル/モリアオガエル のバックアップ(No.6)


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[編集]モリアオガエル(Rhacophorus arboreus

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背中側全体が緑色~黄緑色のカエルらしいカエル。背中に赤い斑紋がでる個体もいる。本州全域および佐渡ヶ島に分布。シュレーゲルアオガエルR. schlegelii)に似るが、本種の方が遥かに大きい。
但し、シュレーゲルアオガエルの雌と本種の雄や幼体は同程度の大きさのため、見分けるのは難しい。虹彩の色(シュレーゲルは金色、モリアオは紅)で見分けるのが一般的だが、本種には紅色とは言い難い虹彩のものもあるため決め手とはならない。
他に、シュレーゲルアオガエルよりも、本種の方が吸盤や水掻きが発達しているため*1、指が目立つこと、本種の方が肌の顆粒が粗いこと等が見分けるポイント。
この手のツリーフロッグは、地面をピョンピョン飛び跳ねていたり、田圃を泳いでいたりする訳ではないので、繁殖期の繁殖地でなければ遭遇することは稀なのだが、シュレーゲルアオガエルの繁殖期は4~5月頃*2、本種の繁殖期は4月~7月頃と微妙に重なっている。また、繁殖地も里山の周辺等、微妙に重なる。
樹上からゴロロ・ゴロロ・ガッ・グルグルと低く太い鳥の様な声が聞こえてくる場合は本種、田の畦等の地面や草むらからコロロ・コロロ・カッと甲高い声が聞こえてくる場合は、シュレーゲルアオガエルだと考えると良いだろう。

普段は里山周辺の森や林の樹上で生活する。シュレーゲルアオガエルが里山平地部の田圃や山間部を開いた棚田の周辺の雑木林に棲むのに比べ、本種は山間部の森林樹間を出ることはあまりなく、野池や溜池等、水場に木が覆いかぶさって茂っている様な場所に棲息する。
本種の繁殖行動は有名で、繁殖期には多数の雌雄が湿地や湖沼等の水辺に集まり、木にぶら下がった雌に多数の雄がしがみつき、泡状の卵塊の中に産卵、および放精する*3。ちょっとした水溜りであっても、水上に樹の枝葉が茂っていれば産卵するため、コンクリートで護岸されたキャンプ場の水場等でも、上に木が生えてさえいれば見られることがある。
棲息域や、この特異な繁殖行動のためか、我国の自然を象徴する様な生き物と考えられ、各地で保護活動の対象とされ、実際に福島県の平伏沼のモリアオガエル繁殖地と、岩手県の大揚沼のモリアオガエルおよびその繁殖地が国指定の天然記念物に指定されている。

ここで勘違いしないでいただきたいのだが、天然記念物の指定は環境省ではなく文部科学省(文化庁)による。つまり環境保全の観点からの指定ではなく、文化的あるいは多分に政治的な思惑が絡むこともあり、守るべき文化であることには筆者も異存はないが、天然記念物に指定されている=減っている、絶滅が危惧されるということではない。
もちろん本種は我国の農耕文化や里山の生活と密接に絡む生態を持つため、昨今、各地で絶滅あるいは絶滅が危惧される生物としてレッドリスト指定を受けていて、環境保全の観点からも守るべき生き物であることに変わりはない。

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[編集]参考情報

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本種の産卵は、夜、水場に張り出した樹上で行われる。樹上に白い泡で包まれた卵を産み、数日でオタマジャクシに孵化した後、樹下の水場に落ちていく。
孵化前の卵塊が水に落ちると孵化しないことが多い。

図鑑や教科書等で、この卵塊の下で、落ちてくるモリアオガエルのオタマジャクシを狙うイモリの写真をご覧になった方も多いと思う。
イモリには、その容姿も相まって狡猾で貪欲な捕食者のイメージが伴うが、実際のイモリは採餌が非常に下手で、本気で泳ぐとオタマジャクシの方が遥かに素早い。そのため基本的には“待ち”の狩りをする生き物で、本種の産卵樹の下で待っているのも、そうした行動の一つであり、特に狡いわけではない。同所にはイモリの天敵であるマムシやヤマカガシも棲息するため、餌にありつく前に自分が餌になってしまう可能性も高く、効率的とは言えない。
また食べるときは必死にがっつくので大食漢の様に思えるが、他の似た生き物(例えばトカゲ等の爬虫綱)に比べると新陳代謝が不活発であるため、どちらかと言えば小食な生き物。これを本種の天敵とするのは、誤りとは言えないまでも正確ではない。

モリアオガエルを今後、絶滅に追い込むかもしれない要因としては、山林の宅地開発、里山の放棄による森林荒廃、ウシガエル、アメリカザリガニ、鯉、ニジマス、ブルーギル、ブラックバスといった大食漢で素早いプレデターである外来種の侵入や移入が最も危惧される。


[編集]関連記事

カエル/シュレーゲルアオガエル
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[編集]関連リンク

Deca-J有尾目部会目外編 | シュレーゲルアオガエル


*1 泳ぐのが得意という訳ではなさそうだ。木に捕まって生活し、繁殖行動も樹上なので指が発達したと思われる。また枝から枝へかなり遠くまで飛び移ることもあり、水掻きの皮膜は落下傘的な役目を多少は果たしているのではないだろうか。
*2 地域にもよる。2月頃から繁殖に入ることもあれば、8月頃まで繁殖行動をしていることもある
*3 正確には雌が産んだ粘液に包まれた卵に雄が放精しながら後肢でかき混ぜて泡状となる。