オカヤドカリ のバックアップ(No.30)


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[編集]オカヤドカリCoenobitidae

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ヤシガニ属(Birgus)を含むオカヤドカリ科(Coenobitidae)の総称。またはヤシガニを除くオカヤドカリ属(Coenobita)の総称。写真はオカヤドカリCoenobita cavipes)。

オカヤドカリ属は日本に6種。オカヤドカリC.cavipes)、ナキオカヤドカリC.rugosus)、ムラサキオカヤドカリC.purpureus)、コムラサキオカヤドカリC.violascens)、オオナキオカヤドカリC.brevimanus)、サキシマオカヤドカリ?C.perlatus)が棲息(偶来種*1は除く)。
オカヤドカリ属全種が国指定天然記念物。

オカヤドカリ科の全てが陸棲であり、幼生(ゾエア〜グラウコトエ)期間を除き、完全な陸上生活を送る。硬い甲殻と太い脚、非常に発達した鰓室を持ち陸上生活に適している。但しオカヤドカリ属の鰓室はヤシガニ属ほどは発達しておらず、鰓が乾けば斃死する。そのため宿貝中に蓄水する。
この蓄水は海水と真水の混ざった塩水*2であり、その塩分濃度は種によって違うことが知られている。
またヤシガニの鰓室は肺に近い働きをし、ヤシガニを水に浸けると溺れることが有名だが、オカヤドカリも水に浸けると溺死するというのは明らかな誤り*3。水場さえあれば自ら水の中に入っていくこともあり、また自然界でも海の中に入り海水を補給している姿を目撃することがある。
筆者は、数年前にペットショップで海のヤドカリと間違えられて、海水中に放り込まれているオカヤドカリを見たことがある。数週間ほど入れられていた様だが、普通にマリンタンクの底を歩いていて、溺死する兆候は見られなかった。もっとも、採餌や脱皮は海水中では行えないため、この状態で飼育し続けることはできない。

オカヤドカリの間違ったブームを引き起こしたある業者が「水なし簡単」を謳い文句にしていたことがあり、そのデマを補強するために「オカヤドカリは水に浸けると溺れる」という誤りを積極的に利用していた節がある。

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[編集]オカヤドカリは群れで生活してはいない

ヤシガニを含むオカヤドカリ科の生き物の中に群れで生活するものはいない。各地で棲息に適した場所(海に近く、外敵から身を守れ、温度他環境の急変が避けられ、適度に湿度が維持されている、例えばアダンの林等)が激減しているため、一見個体数が増えている様に誤解されるが、それは行き場を失った流浪の集団と見る方が正しいのではないだろうか。
大型の個体は主に単独で行動する。若い個体は集団でいる方が外敵から身を守れる可能性が高いために必然的に群れた様な状態でいることもあるが、特に集団生活を営んでいる訳ではない。むしろ貝殻の奪い合いや隠れ家の争奪戦で激しく闘争する。
また、違法採取される場合やマスメディアでの報道は繁殖期(撮影の際は特に満月=大潮の日)と重なるため、産卵のために海岸に集まってきたところを一網打尽にされることが多く、実物の生態を見たことの無い人々からは、群れでウジャウジャいる様に誤解されている*4
数年前にある販売業者が、「群れで生活しているのである程度の数で飼った方が良い」と、大量に売り捌くことを目的としたデマゴギーを流したことがある。ヤラセか成り済ましか取り巻き客の自発意志によるものかは不明なものの、Blogや2ch、BBS等で凄まじいネットキャンペーンが繰り広げられた(それらが理由で閉鎖した板もあった)。
もちろん、一般の消費者の反応は冷静であったものの、一部の固定客が様々な優良飼育者サイトに飛び入りし、デマを振りまき、常識的な飼育者に対するネガティブキャンペーンを行った。*5
そもそも、オカヤドカリの様に我国の通常の家屋事情では4、5匹飼うのが限度、しかも数十年の寿命を持つ生き物の販売業者にリピーターや固定客があるというのが不思議だが、一度に数十匹単位の購入を繰り返す(恐らく都度全滅させていたに違いない)妄信的な顧客が、上記業者の掲示板で度々“傑作なジョーク”を振りまいていた。
尚、同掲示板の管理人は常に忙しく、質問に対するレスポンスが非常に遅いものの、一般飼育者による「質問に対する適切な返答」や、この業者に対する常識的な「意見・要望」は、書き込まれて数分~数時間以内に削除されていた様だ。その後、会員制の掲示板になり固定客の意見しか反映されない様になったが、一度、固定客の「水槽が臭うんです」という大量死を思わせる書き込みがあり、即座に削除されたところを筆者も目撃した。


[編集]鳴くオカヤドカリは珍しくない

未だにナキオカヤドカリムラサキオカヤドカリを「珍しい鳴くオカヤドカリ」と称し、レア感を煽っている業者が在る様だ。中には種の区別なく“鳴く”ものを“ナキオカヤドカリ”と僭称している噴飯物の業者まで存在する様だ。
この手のインボイス名の誤用・乱用は、無知ゆえの過失ではなく非良心的な業者特有の古典的詐称である場合が多いので、消費者は騙されないようにしたいものだ。

我国の市場に流通するオカヤドカリは、ほぼ90%以上(正規ルートなら限りなく100%と言っても差し支えないだろう)がナキオカヤドカリムラサキオカヤドカリなので、“鳴くオカヤドカリ”は珍しくも何ともない*6
また「ナキオカヤドカリの中でも鳴くのは数匹」等と、あたかも“能力の優劣”の如く歪曲した表現も存在する様だが、ナキオカヤドカリであってもムラサキオカヤドカリであっても、鳴くシチュエーションが稀であるだけで、個体毎の差異では有り得ない。
ちなみに、オカヤドカリが鳴くのはメーティングコールではなく、威嚇または悲鳴に近い。

・雄の強引な繁殖行動により雌が悲鳴をあげている。
・繁殖欲求が高まり雄がイライラしている。

この様なケース以外で鳴く場合は、貝殻の奪い合いであるケースも含め、飼育環境の見直しが必要だろう。



[編集]オカヤドカリと海水について

オカヤドカリの飼育に海水が必要というのは、1999年か2000年頃に筆者が提唱したものなので、言い出しっぺの責任として、ここに経緯をまとめておく次第。

当時、自然下のオカヤドカリを観察していると、危険を犯してまで、頻繁に海水を補給しに海へ赴く姿が見られたことから、飼育中のオカヤドカリにも海水は有効ではないかと考えた。
また、海棲の甲殻類(エビやカニやヤドカリ)を飼育する際、強力なプロテインスキマー等を使用すると海水中のヨウ素が不足し、脱皮に失敗しやすくなるということが、当時交流のあったベルリニスト(ベルリン式でミドリイシ等のサンゴを育てている人)の間では定説となっていたため、ヨウ素を補う目的もあり、海水をオカヤドカリの飼育槽中に入れてみた。

実際に海水を入れてみると、オカヤドカリは非常に海水を好み、真水の入った容器と海水容器の間を行ったり来たりして、両方に長々と浸かっている姿が観察できた。
その後、海外のオカヤドカリ愛好家からも、オカヤドカリが貝殻の中に海水と真水の混ざった塩水(えんすい)を蓄水するという情報を得て、今に至る。

オカヤドカリを飼育する場合、海水は必ずしも必要という訳ではなく、小鳥用の塩土やカトルボーン(イカの骨)等で、カルシウムやナトリウム、マグネシウム等の必須元素は補うことができ、また、海藻等の餌を与えることによってヨウ素を補うことができる。

但し、真水は絶対に必要で、未だに「オカヤドカリは水に溺れる」というデマが一部で罷り通っていたりもするが、オカヤドカリが自分で容器から出られない様な深い水入れの中に数週間も放置され、衰弱死してしまうケースを除けば、溺死することはない。水を嫌うようなこともなく、季節にもよるが、日に何度も水浴びする姿が飼育下でも見られるだろう。

オカヤドカリが暮らす環境はカルシウム分の多い弱アルカリ質の土壌で、また海水も弱アルカリ性(pH8程度)なので、塩素を抜いた水道水や、添加物の入っていないミネラルウォーター(pH7前後)で問題ない。
まさかとは思うが、スポーツドリンクや炭酸飲料(pH4~5)、ジュース等を霧吹きで吹きかる様な行為は厳禁。クエン酸(pH2~3と強烈に酸性)が味付けに使われているケースもあるので、炭酸カルシウムの外骨格を溶かしたり、エラを痛めたりで、最悪の場合オカヤドカリが即死する。
香料や添加物もクエン酸以上に危険な場合があるので、塩素を抜いた水道水か無添加のミネラルウォーターを使うことをお薦めする。

同様に、海水も入れっぱなしにしていると水分が蒸発し、塩分濃度が高くなることがあり危険。天然海水濃度以下(比重1.023以下)の新鮮な海水を常に用意できないのであれば、海水は入れない方が良い。
海水は港湾や河口ではなく外洋に面した海から清浄な海水を汲んでくるか、ペットショップで簡単に入集可能(Amazonでも入手可)な人工海水を使用するのが(コスパも)良い。
食塩(粗塩や、天然塩や自然塩と商品名にうたっているものも含む)を水に溶いても海水とは全くの別物で、比重:濃度も違うので一時的な代用も避けた方が良いだろう。



[編集]関連記事

ヤドカリ/オオナキオカヤドカリ
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ヤドカリ/ナキオカヤドカリ


[編集]オカヤドカリの飼育方法

オカヤドカリの飼育未経験者による怪情報ではなく、オカヤドカリの飼育経験者による実体験に基づいた正則情報のみをリンクしています。

オカヤドカリ見聞録

みーばい亭|オカヤドカリの飼い方

オカヤドはん:オカヤドカリと雑文(blog)

デカ-ジェイ キッズ|おかやどかり の かいかた(きほん)

オカヤドカリのトンデモ飼育法


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オカヤドカリのトンデモ飼育法

オカヤドカリの生態について

オカヤドカリ飼育に関するFAQ

オカヤドカリ飼育に関し、判明している事実

販売できる天然記念物を巡る大誤解


*1 このwikiでは、我国で発見の記録または報告またはその疑いがあるものの、個体数が少なく棲息とは言い難いものを指す。つまり、アカツキオカヤドカリ、オオトゲオカヤドカリのこと。偶来の理由−無効分散、船荷等について運ばれたもの、人為的な放逐−は問わない。
*2 “しおみず”ではなく、“えんすい”である。オカヤドカリのトンデモ飼育法「トンデモ15:オカヤドカリ飼育には塩水が必要」参照のこと。
*3 飼育下では脱皮時に砂の中で溺死させてしまうことがある。冬場等、水槽の中だけ高温多湿になる際に引き起こしてしまう過失致死で、結露水で砂が水浸しになり脱皮中で動けないオカヤドカリが溺死(窒息死)する。砂中の汚水には酸素が含まれない。
*4 繁殖期以外でも海岸の波打ち際近辺で多数がウロウロしていることがあり、観光客等がそれを目撃し「群れ」と表現することもある様だ。但し、このwikiでは、海から上がってきたばかりの稚ヤドカリ(またはグラウコトエ)や、打ち上げられた宿貝に一時的に群がっている弱齢個体の集団を「群れ」とは表現しない。
*5 当時の噴飯物の業者のいくつかは生体販売から撤退した様だが、未だに常識的な飼育者サイトに対し、「糞回答ありがとう。何様ですか?」といった定型のネガティブキャンペーンを行う業者、あるいはその取り巻き、または成り済ましが残存している様だ。
*6 鳴かないオカヤドカリで市場に出る可能性のあるものはオカヤドカリコムラサキオカヤドカリであり、いずれも流通量は少ない。