ヤドカリ/ムラサキオカヤドカリ

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[編集]ムラサキオカヤドカリCoenobita purpureus

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他のオカヤドカリ属と同様、熱帯域の陸上に棲息。
ナキオカヤドカリに非常に似る。即ち鉗脚上縁の毛束列と左鉗脚の掌部外面の斜向顆粒列が(ナキオカヤドカリを除く)他種との顕著な違い。眼柄の断面は著しく扁平する。
色は白、薄い青、スミレ色、オレンジがかった紫等バラエティに富むが、ある程度の齢に達した個体は概ね紫色になる。弱齢個体の体色は概ね白。体色だけでは本種とナキオカヤドカリの区別はつかない。眼柄下部の暗色線の有無によって見分ける。
写真の個体は、観光地の砂浜で見付けたものだが、宿(貝殻)から飛び出してしまっている。一般に飼育下での貝殻脱落は衰弱しているか脱皮失敗等で、貝殻を支えるための第4、第5脚が上手く機能していないことが多く、そういった個体の致死率は高いのだが、天然下では、外敵(主にヒト)に襲われて貝殻を捕まえられた時等に、貝殻を残してスタコラサッサと逃げる場合がある。
貝殻を早期に見付けられれば生き残れる可能性は高いが、強い陽射しの元、身体が乾いてしまう前に適当な貝殻を見付けられる可能性はかなり低い。

ナキオカヤドカリと同様に発音器を持つため「鳴くオカヤドカリ」として有名。一般にオカヤドカリが鳴くのは、昆虫やカエル等のメーティングコールとは意味合いが違い、むしろリリースコールか威嚇音に近いものと思われる。外敵に襲われたりストレスを受けたり不快な時に鳴く様だ。
沖縄諸島が主な棲息域だが、小笠原諸島でも見られる。本州の一部でも越冬が確認される。世界最北限に棲息するオカヤドカリとして貴重な種。

我国で最も多産するオカヤドカリで、個体数は多い。但し、開発等による棲息環境の減少・悪化が深刻な影響を与えている可能性がある。一説には30年以上生きると言われ、大量に棲息していても幼い世代が増えていない可能性が高い。
繁殖は海で行われ誕生時はゾエアとして放出される。やがてグラウコトエとなり貝殻を背負って上陸してくるのだが、放仔・上陸に適した環境が激減していることに加え、棲息地と繁殖地の往来を妨げる要因が増大している。

市場にはナキオカヤドカリと共に大量に流通している。昨今の俄ブームのためか小型個体の流通が著しく増えた(オカヤドカリの採取制限はt数による=小型個体の方が多数採取可能)。このことが上記環境の悪化と相俟って、数年後には急激に減少する恐れもある。

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[編集]ムラサキオカヤドカリナキオカヤドカリの眼柄

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[編集]鳴くオカヤドカリ

未だに本種ナキオカヤドカリを「珍しい鳴くオカヤドカリ」と称し、レア感を煽っている業者が在る様だ。中には種の区別なく“鳴く”ものを“ナキオカヤドカリ”と僭称している噴飯物の業者まで存在する様だ。
この手のインボイス名の誤用・乱用は、無知ゆえの過失ではなく非良心的な業者特有の古典的詐称である場合が多いので、消費者は騙されないようにしたいものだ。

我国の市場に流通するオカヤドカリは、ほぼ90%以上(正規ルートなら限りなく100%と言っても差し支えないだろう)がナキオカヤドカリムラサキオカヤドカリなので、“鳴くオカヤドカリ”は珍しくも何ともない*1。また「ナキオカヤドカリの中でも鳴くのは数匹」等と、あたかも“能力の優劣”の如く歪曲した表現も存在する様だが、ナキオカヤドカリであってもムラサキオカヤドカリであっても、鳴くシチュエーションが稀であるだけで、個体毎の差異では有り得ない。
ちなみに、オカヤドカリが鳴くのはメーティングコールではなく、威嚇または悲鳴に近い。

・雄の強引な繁殖行動により雌が悲鳴をあげている。
・繁殖欲求が高まり雄がイライラしている。

この様なケース以外で鳴く場合は、貝殻の奪い合いであるケースも含め、飼育環境の見直しが必要だろう。



[編集]ムラサキオカヤドカリの発音器

出処は不明だが、「ナキオカヤドカリや本種には、声帯などの発声器官はなく、貝殻の内側を足で引っ掻くことにより音を出す」という情報が散見(2016年現在)され、(そもそも足は無いが、発声器官ではなく発音器官はあるが、)間違いではないものの、誤解を招く恐れがあるため追記した。
プラケースの壁面を登ろうとしてキュウキュウ音を出しているものを「鳴いた」と勘違いしているケースも含め、どのオカヤドカリでも歩脚の指節(爪の様な部分)で貝殻を引っ掻いて鳴く様なイメージを持つ飼育者や、中には、尾肢を貝殻に擦りつけて鳴くという噴飯物のQ&A*2まであり、微笑ましくないこともないのだが、かつて「珍しい鳴くオカヤドカリ」としてレア物商法を企んだ業者まで存在したので、「オカヤドカリが鳴くのに最適な貝殻」商法が登場しないとも限らない。

古い文献では、ナキオカヤドカリが左大鉗脚の斜向顆粒列*3を貝殻に擦りつけて音を出すために、ナキオカヤドカリと名付けられたという経緯が記載されている。また鉗脚の斜向顆粒列と第一歩脚の指節下縁の稜を擦りつけて鳴いている等の説も過去の資料に見ることができる。
その後、ナキオカヤドカリと同様に鉗脚に斜向顆粒列を持つ本種も、鳴くことが判明したため、有力な説の様にも見えるが、よく鳴くと言われるオオナキオカヤドカリの鉗脚には斜向顆粒列はないため、これらの説は今では否定されている。

ここ最近の研究者や飼育者の観察からは、どうやら第一歩脚の稜のギザギザ(発音器)を貝殻の殻口内側に擦りつけて音を出しているのではないかという説が有力で、筆者もこの説を支持している。

本種も含めオカヤドカリ属の付属肢(第四脚、第五脚)の先端はヤスリ状になっていて、背負った貝殻を固定するために役立っているのだが、これを発音器と勘違いしている様な見解も見られ、さらには付属肢と尾肢とを混同した様な情報も見られるため、以下に体の構造を図示しておく。

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[編集]飼育下での餌について

天然下での食性は植食性の強い雑食で、海岸樹林の照葉樹の葉や落ち葉、アダンの実等を常食し、昆虫や脊椎動物の死骸、人間の食べ残した残飯にも群がる。時折、海岸に降りて魚の死骸等も食べている。宿貝の確保目的も併せ、海へ入り生きた貝の肉を食べることもある。

飼育下では、生のニンジン、リンゴ、小松菜やスイートコーン(茹でたもの)等を主食として与え、時々、動物質の餌として、焼鮭の切り身(皮ごと)、コウナゴ干し(頭部分)等を与えると良い。
ペットショップで手に入る餌としては、ザリガニの餌(あまり食べないが、たまに狂った様に食べる)、熱帯魚用のクリル、ハムスター用のドライマンゴー等が使える。やや値は張るが人間用のココナッツチップスやフルーツグラノーラもお勧め。パルメザンチーズも驚くほど食べるので、たまにやると良いだろう。
また、オカヤドカリはおめでたい性格なのか、安価で手軽に入手できる観葉植物のガジュマル(多幸の木)やベンケイソウ(金のなる木)の葉をよく食べる。農薬や殺虫剤の影響が考えられるため、買ってきたばかりのものを与えるのは避け、伸びて剪定した枝や葉を時々入れてやると良いだろう。根の付いたまま飼育容器内には植えない方が良い。

アメリカのFMR社が開発したオカヤドカリ専用フード「FMR Land Hermit Crab Treat」は非常に嗜好性の高い餌*4で、ポップコーン等とは比べ物にならない程、よく食べる。栄養バランスも考えられているので非常に効果的な餌だが、我国では並行輸入の物しか売っておらず、異常に高価なのが難点。
高いお金を出して買い求める程の有用性ではない*5ので、我国の“自称”専用フードとやらを開発しているメーカーが、心を入れ替えてマトモな餌を開発してくれることを待ちたい。

オカヤドカリはかなりの少食なので、毎日少しづつ、また雑食の生き物は、本能的に栄養の偏りを防ぐためなのか、何度も続けて同じものは食べないので、前日とは違った餌を与えると良い。

ポップコーンは与えても良いが、栄養価が低く、また見た目の大きさの割には、ほとんど空気の塊なので、餌としては考えず、飼い主の目の保養のため程度に考えておくこと。
たまに「ポップコーンしか食べない」という主張を見掛けるが、これは飼い主が他に適当な餌を与えることができておらず、極度の飢餓状態になっているものと思われる。
流通過程では絶食状態で、店頭でもちゃんとした餌を与えられていない場合が多く、購入直後のオカヤドカリは消化器官が不活化していることが考えられる。この様な状況に晒され拒食化した個体が、最初から普通の餌をガンガン食べることはないので、「ポップコーンしか食べない」状況であれば尚更、ポップコーンを与えるのを避け、ニンジンや小松菜等の繊維質の多い餌を小まめに給餌してやる方が良いだろう。
長期間、栄養状態の悪い状況に置かれた甲殻類は、自身の脱皮殻を食べながら生き延びることもあるのだが、その場合、本来の成長に伴うものとは違い脱皮の度に小さくなり、やがては脱皮に失敗し、斃死する。



[編集]オカヤドカリと海水について

オカヤドカリの飼育に海水が必要というのは、1999年か2000年頃に筆者が提唱したものなので、言い出しっぺの責任として、ここに経緯をまとめておく次第。

当時、自然下のオカヤドカリを観察していると、危険を犯してまで、頻繁に海水を補給しに海へ赴く姿が見られたことから、飼育中のオカヤドカリにも海水は有効ではないかと考えた。
また、海棲の甲殻類(エビやカニやヤドカリ)を飼育する際、強力なプロテインスキマー等を使用すると海水中のヨウ素が不足し、脱皮に失敗しやすくなるということが、当時交流のあったベルリニスト(ベルリン式でミドリイシ等のサンゴを育てている人)の間では定説となっていたため、ヨウ素を補う目的もあり、海水をオカヤドカリの飼育槽中に入れてみた。

実際に海水を入れてみると、オカヤドカリは非常に海水を好み、真水の入った容器と海水容器の間を行ったり来たりして、両方に長々と浸かっている姿が観察できた。
その後、海外のオカヤドカリ愛好家からも、オカヤドカリが貝殻の中に海水と真水の混ざった塩水(えんすい)を蓄水するという情報を得て、今に至る。

オカヤドカリを飼育する場合、海水は必ずしも必要という訳ではなく、小鳥用の塩土やカトルボーン(イカの骨)等で、カルシウムやナトリウム、マグネシウム等の必須元素は補うことができ、また、海藻等の餌を与えることによってヨウ素*6を補うことができる。

但し、真水は絶対に必要で、未だに「オカヤドカリは水に溺れる」というデマが一部で罷り通っていたりもするが、オカヤドカリが自分で容器から出られない様な深い水入れの中に数週間も放置され衰弱死してしまうケースや、底砂の中に溜まった汚水(止水なので酸素が含まれない)中から出られず窒息死してしまうケースを除けば、溺死することはない。水を嫌うようなこともなく、季節にもよるが、日に何度も水浴びする姿が飼育下でも見られるだろう。

オカヤドカリが暮らす環境はカルシウム分の多い弱アルカリ質の土壌で、また海水も弱アルカリ性(pH8程度)なので、塩素を抜いた水道水や、添加物の入っていないミネラルウォーター(pH7前後)で問題ない。
まさかとは思うが、スポーツドリンクや炭酸飲料(pH4~5)、ジュース等を霧吹きで吹きかる様な行為は厳禁。クエン酸(pH2~3と強烈に酸性)が味付けに使われているケースもあるので、炭酸カルシウムの外骨格を溶かしたり、エラを痛めたりで、最悪の場合オカヤドカリが即死する。
香料や添加物もクエン酸以上に危険な場合があるので、塩素を抜いた水道水か無添加のミネラルウォーターを使うことをお薦めする。

同様に、海水も入れっぱなしにしていると水分が蒸発し、塩分濃度が高くなることがあり危険。天然海水濃度以下(比重1.023以下)の新鮮な海水を常に用意できないのであれば、海水は入れない方が良い。
海水は港湾や河口ではなく外洋に面した海から清浄な海水を汲んでくるか、ペットショップで簡単に入手可能(Amazonでも入手可)な人工海水を使用するのが(コスパも)良い。
食塩(粗塩や、天然塩や自然塩と商品名にうたっているものも含む)を水に溶いても海水とは全くの別物で、比重:濃度も違うので一時的な代用も避けた方が良いだろう。


[編集]関連記事

ヤドカリ/オカヤドカリ
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ヤドカリ/オオナキオカヤドカリ


[編集]オカヤドカリの飼育方法リンク

かつての飼育者は、掲示板(BBS)などでさかんに情報交換を行い、時には研究者とも交流して、オカヤドカリの飼育方法を模索していったのだが、ある時、その飼育情報の都合の良い部分だけを盗用し、都合良く捻じ曲げた上で、専用、専門等、情報元を偽装して商売に利用し始める連中が現れたため、善意で情報公開していた飼育者は、情報を公にし辛くなった。
筋違いなクレームを、飼育者サイトに寄越す(成済ましも含む)消費者や愛好家がいたことも大きく、サイトの閉鎖に追い込まれる場合もあった。
現在、オカヤドカリ飼育の趣味が昔よりは一般化し、優良な飼育情報を公開する善意の飼育者も増えたため、かつての飼育者たちも情報を再び公開しつつある。
悪質なネガティブキャンペーンもあり、「仲間内だけでコッソリ情報交換する陰険なベテラン勢」の様な印象を、持たれた方も多かっただろうが、上記の様な経緯があったことを、ご理解いただければ。

オカヤドカリ見聞録

みーばい亭|オカヤドカリの飼い方

オカヤドはん:オカヤドカリと雑文(blog)

デカ-ジェイ キッズ|おかやどかり の かいかた(きほん)

オカヤドカリのトンデモ飼育法


[編集]十脚目通信内関連リンク

十脚目優良飼育情報リンク

デカ-ジェイ キッズ|やどかり と おかやどかり

オカヤドカリのトンデモ飼育法

オカヤドカリの生態について

オカヤドカリ飼育に関するFAQ

オカヤドカリ飼育に関し、判明している事実

販売できる天然記念物を巡る大誤解


*1 鳴かないオカヤドカリで市場に出る可能性のあるものはオカヤドカリコムラサキオカヤドカリであり、いずれも流通量は少ない。
*2 「沖縄県天然記念物調査シリーズ第29集 あまん オカヤドカリ生息実態報告書」(沖縄県教育委員会,1987)内に、それまで定説だった「左大鉗脚の摩擦顆粒列を貝殻に擦りつけて音を出す」という説を否定する意味で書かれた「音は宿貝の殻内から聞こえてくる。発音メカニズムは実は尾肢外肢を宿貝の殻軸壁に摩擦させることによって音を発生させている」という記述があり、この伝聞の伝聞が、20数年後の現在、「尾肢を貝殻に擦りつけて鳴く」という怪情報となって姿を現したと思われる。
*3 当時は斜向顆粒列ではなく摩擦顆粒列と記述、つまり貝殻に擦りつけて音を出すための器官と目されていた。
*4 筆者が飼育しているムラサキオカヤドカリとナキオカヤドカリの場合。ちなみにFMR Land Hermit Crab Foodも与えてみたが、こちらは見向きもしなかった。
*5 筆者はココナッツチップスとドライマンゴーに魚粉を混ぜミキサーに掛けたもので、この餌に似たものを作ったことがあるが、よく食べた
*6 飼育水にヨウ素を添加することで補うこともできるが、市販のうがい薬等はアルコールが入っていたり、ヨウ素の濃度が濃すぎるので危険。飼育水の量にもよるが、スポイトで1滴垂らした程度では充分に致死量になる。1ppm=100万分の1程度に薄めたものを1滴、脱皮前に飼育水に添加してやるぐらいが安全。