ヤドカリ/オカヤドカリ
[編集]オカヤドカリ(Coenobitidae)
ヤシガニ属(Birgus)を含むオカヤドカリ科の総称。またはヤシガニを除くオカヤドカリ属(Coenobita)の総称。
オカヤドカリ属は日本に6種。オカヤドカリ(C.cavipes)、ナキオカヤドカリ(C.rugosus)、ムラサキオカヤドカリ(C.purpureus)、コムラサキオカヤドカリ(C.violascens)、オオナキオカヤドカリ(C.brevimanus)、サキシマオカヤドカリ?(C.perlatus)が棲息。
オカヤドカリ属全種が国指定天然記念物。
[編集]オカヤドカリ(Coenobita cavipes)
オカヤドカリ科オカヤドカリ属オカヤドカリという種。
他のオカヤドカリ属と同様、熱帯域の陸上に棲息。
ムラサキオカヤドカリやナキオカヤドカリとは形態的にやや違いがあり、コムラサキオカヤドカリに似る。即ち左鉗脚の掌部外面に斜向顆粒列がないことと眼柄の断面がそれほど扁平しないことが特徴。
色は褐色。発音器は持たない(鳴かない)はず。
インド−西太平洋に広く分布。
我国での個体数はムラサキオカヤドカリやナキオカヤドカリに比べると少ないが、希少という訳でもない。
市場には上記2種のマジリで流通する可能性があるが、棲息環境が違うためか繁殖時期の違いなのか混じることは少ない様だ。昔からの釣餌ルートでの流通があるのか大型の個体が本種単体で大量に出回ることがある。
飼育環境は上記2種とほぼ同じで良いはず。
節足動物門 > 甲殻亜門 > 軟甲綱(エビ綱)> 真軟甲亜綱 > ホンエビ上目 > 十脚目(エビ目)> 抱卵亜目(エビ亜目)> 異尾下目(ヤドカリ下目) > ホンヤドカリ上科 > オカヤドカリ科 > オカヤドカリ属
[編集]オカヤドカリの眼柄と鉗脚
ナキオカヤドカリの様な眼柄下部の暗色線はない。
また、ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリの様に、鉗脚上縁の毛束列や左鉗脚の掌部外面の斜向顆粒列がなく、鉗脚全体に顆粒が散らばる。
[編集]飼育下での餌について
天然下での食性は植食性の強い雑食で、海岸樹林の照葉樹の葉や落ち葉、アダンの実等を常食し、昆虫や脊椎動物の死骸、人間の食べ残した残飯にも群がる。時折、海岸に降りて魚の死骸等も食べている。宿貝の確保目的も併せ、海へ入り生きた貝の肉を食べることもある。
飼育下では、生のニンジン、リンゴ、小松菜やスイートコーン(茹でたもの)等を主食として与え、時々、動物質の餌として、焼鮭の切り身(皮ごと)、コウナゴ干し(頭部分)等を与えると良い。
ペットショップで手に入る餌としては、ザリガニの餌(あまり食べないが、たまに狂った様に食べる)、熱帯魚用のクリル、ハムスター用のドライマンゴー等が使える。やや値は張るが人間用のココナッツチップスやフルーツグラノーラもお勧め。パルメザンチーズも驚くほど食べるので、たまにやると良いだろう。
また、オカヤドカリはおめでたい性格なのか、安価で手軽に入手できる観葉植物のガジュマル(多幸の木)やベンケイソウ(金のなる木)の葉をよく食べる。農薬や殺虫剤の影響が考えられるため、買ってきたばかりのものを与えるのは避け、伸びて剪定した枝や葉を時々入れてやると良いだろう。根の付いたまま飼育容器内には植えない方が良い。
アメリカのFMR社が開発したオカヤドカリ専用フード「FMR Land Hermit Crab Treat」は非常に嗜好性の高い餌*1で、ポップコーン等とは比べ物にならない程、よく食べる。栄養バランスも考えられているので非常に効果的な餌だが、我国では並行輸入の物しか売っておらず、異常に高価なのが難点。
高いお金を出して買い求める程の有用性ではない*2ので、我国の“自称”専用フードとやらを開発しているメーカーが、心を入れ替えてマトモな餌を開発してくれることを待ちたい。
オカヤドカリはかなりの少食なので、毎日少しづつ、また雑食の生き物は、本能的に栄養の偏りを防ぐためなのか、何度も続けて同じものは食べないので、前日とは違った餌を与えると良い。
ポップコーンは与えても良いが、栄養価が低く、また見た目の大きさの割には、ほとんど空気の塊なので、餌としては考えず、飼い主の目の保養のため程度に考えておくこと。
たまに「ポップコーンしか食べない」という主張を見掛けるが、これは飼い主が他に適当な餌を与えることができておらず、極度の飢餓状態になっているものと思われる。
流通過程では絶食状態で、店頭でもちゃんとした餌を与えられていない場合が多く、購入直後のオカヤドカリは消化器官が不活化していることが考えられる。この様な状況に晒され拒食化した個体が、最初から普通の餌をガンガン食べることはないので、「ポップコーンしか食べない」状況であれば尚更、ポップコーンを与えるのを避け、ニンジンや小松菜等の繊維質の多い餌を小まめに給餌してやる方が良いだろう。
長期間、栄養状態の悪い状況に置かれた甲殻類は、自身の脱皮殻を食べながら生き延びることもあるのだが、その場合、本来の成長に伴うものとは違い脱皮の度に小さくなり、やがては脱皮に失敗し、斃死する。
[編集]オカヤドカリと海水について
オカヤドカリの飼育に海水が必要というのは、1999年か2000年頃に筆者が提唱したものなので、言い出しっぺの責任として、ここに経緯をまとめておく次第。
当時、自然下のオカヤドカリを観察していると、危険を犯してまで、頻繁に海水を補給しに海へ赴く姿が見られたことから、飼育中のオカヤドカリにも海水は有効ではないかと考えた。
また、海棲の甲殻類(エビやカニやヤドカリ)を飼育する際、強力なプロテインスキマー等を使用すると海水中のヨウ素が不足し、脱皮に失敗しやすくなるということが、当時交流のあったベルリニスト(ベルリン式でミドリイシ等のサンゴを育てている人)の間では定説となっていたため、ヨウ素を補う目的もあり、海水をオカヤドカリの飼育槽中に入れてみた。
実際に海水を入れてみると、オカヤドカリは非常に海水を好み、真水の入った容器と海水容器の間を行ったり来たりして、両方に長々と浸かっている姿が観察できた。
その後、海外のオカヤドカリ愛好家からも、オカヤドカリが貝殻の中に海水と真水の混ざった塩水(えんすい)を蓄水するという情報を得て、今に至る。
オカヤドカリを飼育する場合、海水は必ずしも必要という訳ではなく、小鳥用の塩土やカトルボーン(イカの骨)等で、カルシウムやナトリウム、マグネシウム等の必須元素は補うことができ、また、海藻等の餌を与えることによってヨウ素を補うことができる。
但し、真水は絶対に必要で、未だに「オカヤドカリは水に溺れる」というデマが一部で罷り通っていたりもするが、オカヤドカリが自分で容器から出られない様な深い水入れの中に数週間も放置され、衰弱死してしまうケースを除けば、溺死することはない。水を嫌うようなこともなく、季節にもよるが、日に何度も水浴びする姿が飼育下でも見られるだろう。
オカヤドカリが暮らす環境はカルシウム分の多い弱アルカリ質の土壌で、また海水も弱アルカリ性(pH8程度)なので、塩素を抜いた水道水や、添加物の入っていないミネラルウォーター(pH7前後)で問題ない。
まさかとは思うが、スポーツドリンクや炭酸飲料(pH4~5)、ジュース等を霧吹きで吹きかる様な行為は厳禁。クエン酸(pH2~3と強烈に酸性)が味付けに使われているケースもあるので、炭酸カルシウムの外骨格を溶かしたり、エラを痛めたりで、最悪の場合オカヤドカリが即死する。
香料や添加物もクエン酸以上に危険な場合があるので、塩素を抜いた水道水か無添加のミネラルウォーターを使うことをお薦めする。
同様に、海水も入れっぱなしにしていると水分が蒸発し、塩分濃度が高くなることがあり危険。天然海水濃度以下(比重1.023以下)の新鮮な海水を常に用意できないのであれば、海水は入れない方が良い。
海水は港湾や河口ではなく外洋に面した海から清浄な海水を汲んでくるか、ペットショップで簡単に入手可能(Amazonでも入手可)な人工海水を使用するのが(コスパも)良い。
食塩(粗塩や、天然塩や自然塩と商品名にうたっているものも含む)を水に溶いても海水とは全くの別物で、比重:濃度も違うので一時的な代用も避けた方が良いだろう。
[編集]関連記事
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[編集]オカヤドカリの飼育方法
かつての飼育者は、掲示板(BBS)などでさかんに情報交換を行い、時には研究者とも交流して、オカヤドカリの飼育方法を模索していったのだが、ある時、その飼育情報の都合の良い部分だけを盗用し、都合良く捻じ曲げた上で、専用、専門等、情報元を偽装して商売に利用し始める連中が現れたため、善意で情報公開していた飼育者は、情報を公にし辛くなった。
筋違いなクレームを、飼育者サイトに寄越す(成済ましも含む)消費者や愛好家がいたことも大きく、サイトの閉鎖に追い込まれる場合もあった。
現在、オカヤドカリ飼育の趣味が昔よりは一般化し、優良な飼育情報を公開する善意の飼育者も増えたため、かつての飼育者たちも情報を再び公開しつつある。
悪質なネガティブキャンペーンもあり、「仲間内だけでコッソリ情報交換する陰険なベテラン勢」の様な印象を、持たれた方も多かっただろうが、上記の様な経緯があったことを、ご理解いただければ。
[編集]十脚目通信内関連リンク
*1 筆者が飼育しているムラサキオカヤドカリとナキオカヤドカリの場合。ちなみにFMR Land Hermit Crab Foodも与えてみたが、こちらは見向きもしなかった。
*2 筆者はココナッツチップスとドライマンゴーに魚粉を混ぜミキサーに掛けたもので、この餌に似たものを作ったことがあるが、よく食べた