カニ/ベンケイガニ

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[編集]ベンケイガニ(Sesarmops intermedius

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海岸近くの森や崖、干潟や河口の泥地など、海辺では最もよく目にする陸棲のカニ。アカテガニに比べると海水への依存度が高く、海から遠く離れた場所で見掛けることはあまりない。ペットショップ等で「アカテガニ」といって売られているものは、(海=カニという感覚でいる分には採取場所が特定しやすく、また採取業者等が活動する夜に捕獲しやすいためだろうか、)ベンケイガニであることが多い。
体全体がオレンジ色がかった派手な赤いカニだが、アカテガニに比べると鉗脚の赤味は薄い。
本来は海岸の森に穴を掘って棲み、写真の様に岩から湧水が染み出している様な場所や、雨水が海に流れ込む様な水路には、かならず本種がいるのだが、都会ではこういった場所が減っているためか、河口の泥干潟や人工の石垣にも細々と生存している。
食性は植食性の強い雑食で、照葉樹の森で落ち葉等をよく食べているが、死んだ魚や昆虫、小動物等も食べているものと思われる。自然下ではアカテガニよりも生臭い場合が多く、またフナムシを捕食しているシーンもよく目にするので本種の方がやや肉食性が強い様だ。

ペットショップ等では、サワガニと同じ扱いで薄く水を張った容器でキープされていることが多いが、実際には陸棲傾向が強い。自然下でも陸地をウロウロしていて、採餌も主に陸上で行う。水が必要なのは呼吸に際してと、脱皮の際。
口器の横に溝があり、その溝と脚の付け根に取水孔のある鰓の間を水を循環させて呼吸している*1が、水が古くなってくると粘ついて呼吸しにくくなるため、体ごと水の中に入り新鮮な水と交換する。即ち口から泡を出している時は呼吸が苦しくなっている。
脱皮は完全に水の中で行う。大きさにもよるが、成ガニで年に一回程度。数分で脱皮を完了するが完全に体が固まるまでには1日ほど掛かる。その間はソフトシェルクラブの状態で非常に無防備なため、飼育するなら単独飼育が原則。
飼育下ではニンジン、リンゴ等をよく食べる。時々ザリガニ・ヤドカリの餌等を与えてやる。
飼育環境はオカヤドカリに似る。砂を敷き流木等を配してやると良いが、体が大きいのでオカヤドカリよりも更に大きく深い水場が必要。また脚が長く体が平べったいので脱走が上手く、ピッタリと閉まるフタが無ければ飼育は不可能。

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[編集]参考情報

アカテガニの甲部(左)とベンケイガニの甲部(右)

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本種の甲外縁には鋭い切れ込みがある。甲表面もゴツゴツした感じで、鉗脚内側(手首の様な部分)に鋸条(ギザギザ)があることでも見分けられる。
実物を見ると、明らかに姿形が違うため、両種は簡単に見分けが付くのだが、写真等で「このカニは何ですか?」と聞かれると見分けるのが非常に難しい。角度や光の加減によってはアカテガニの甲部がゴツゴツしてみえることもあり、ベンケイガニの甲部がツルツルして見えることもある。
甲部を上から撮った写真の場合、甲外縁の鋭い切れ込みに注目、斜めから撮った様な写真の場合には、鉗脚内側の鋸条の有無で見分けると良いだろう。


[編集]棲息環境

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海岸林の木の根元等に穴居する。同じ様な場所にはアカテガニも棲むが、本種の方が海水(塩分)への依存度が高い様で、海から離れるに従ってアカテガニの方が隆盛となる。
警戒心はアカテガニより強い様で、日の高い内にはなかなか姿を現さない。アカテガニの様に道端をノコノコ歩いている様なこともあまりないのだが、森の中や雨上がりの草叢等では、たまに昼間でもウロウロしていることがある。どこから迷い出たのか、海近くのキャンプ場で炎天下の芝の上を駆け回っている本種の姿には心が和む。

写真は南紀某所の個体で、他の棲息地でみるベンケイガニに比べると赤味が強い。遠くから見るとアカテガニと見分けがつきにくいが、鉗脚の先の白い部分の面積が大きいことで本種と判る。

クロベンケイガニをベンケイガニとし、本種をアカベンケイガニとする記述が時々見られるが、これは商品名としてのインボイス、または観察者や飼育者の便宜的な呼称である。
クロベンケイガニはベンケイガニ科アカテガニ属、本種はベンケイガニ科ベンケイガニ属なので、黒いベンケイガニと赤いベンケイガニという理解の仕方はあまり本質を表しておらず、また、時季にもよるが、クロベンケイガニアカテガニは同所的に見られることが多いが、そういった場所での本種の個体数は偶来と言ってよいレベルで少ない。
逆に本種とアカテガニも同所的にみられることもあるが、そういった場所でのクロベンケイガニの数は少ない。
この3種は繁殖期を除き、

  • ベンケイガニ=海岸林、山が海に迫っている様な崖や石垣、河口の泥地など。
  • アカテガニ=海岸林~森、河口域の森林など。
  • クロベンケイガニ=海に流れ込む水路や河口域の干潟や護岸、下流域(時に中流域まで進出)の護岸や田圃など。

が、主な棲息域になる。

「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という諺がある。
海岸付近の陸地をウロウロするカニの中にあって、アカテガニカクベンケイガニは自ら穴を掘ることはなく、クロベンケイガニは穴を掘ることはあっても泥質の干潟や田の畦等の軟泥質に限られる。
砂地にいるスナガニの仲間コメツキガニは横向きに潜るため、掘った穴の直径は基本的には甲幅より小さく、また、サワガニが穴を掘るのは水の中であり、冬眠時に田の畦などに潜り込むことはあるが穴の口は閉じている。
従って、諺にある“甲羅に似せた穴を掘る”カニとは本種ベンケイガニではないだろうかと筆者は思う。自然の残された海岸では、本種は粘土質の崖に穴を掘ってコロニーを作っていることが多い。



[編集]飼育について

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半水棲の、例えばクサガメやイシガメの様に、水を張り上陸用の石を置いた様な飼い方がイメージされがちだが、ベンケイガニは基本的には陸地で生活するカニなので、図の様な飼育環境が望ましい。
陸棲とは言え、鰓呼吸なので鰓が乾くと死んでしまう。そのため、カニが体ごと浸かれる水場が必要。また脱皮も水の中でないと行えないので、大きめの水場を常に新鮮な水で満たしてやると良いだろう。
また、水は海水ではなく淡水で良い。時々、ごく薄い人工海水を与えるのも良いだろう。
この水量では濾過装置を使っても生物濾過の効果は期待できない。またコンセントのリードやホース等は脱走の足掛かりになりやすいので、水を定期的に換える方法が飼育しやすい。
魚や水棲のカニの様に、水の中で採餌・呼吸・排泄を行う訳ではないので、水はそれほど汚れることはなく、1週間~2週間に1回程度の換水または足し水でキープは可能。
但し、砂は汚れるので定期的な砂の洗浄や交換が必要。筆者は乾いた砂をストックしておき、1ヵ月に一度程度、表面の砂を新しいものと交換している。(取り出した砂は洗って乾かし、ストックしておく)

カニは土木工事が好き*2で、飼育下では飼い主が用意したレイアウトは、必ず掘り起こされ改変を加えられるのだが、本種は特にその傾向が強く、原型を留めないほど掘り起こされ、埋め立てられる。
砂掃除の際、せっかく掘った穴や埋め立てた住処を潰してしまうのが気の毒になるほどだが、次の日にはまた土木工事を開始するので、かまわず定期的な砂掃除を行うと良いだろう。
また、土木工事には水を大量に消費するので、飼育開始時やレイアウト変更後の一週間前後は、水入れのチェックを特に入念に行ったほうが良い。

飼育匹数は、1ケースに1匹が安全。
60cm水槽で、脱皮用の水場を複数設置する、隠れ家を多く設ける等工夫して小型の個体を2,3匹程度なら同居させられるが、1~2年ですぐに大型化する上、脱皮時に水場で食殺された死骸の悲惨さ(臭いもかなりキツイ)はトラウマになるレベルなので、きめ細かく、脱皮の兆候を見逃さず日々のケアができる人か、死骸の姿や臭いにショックを受けないタイプの人にしか複数飼いはお薦めできない。



[編集]ベンケイガニの体色変化

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2つの写真が、実は同じ個体を同日中に撮ったものだと言って、信じてもらえるだろうか。左側は明るい場所で甲が乾いている、右側は暗い場所で甲は濡れているといった違いはあれ、かなりの色変化ではないだろうか。

明るい日差しの下、真っ赤に色づいていることの多いベンケイガニだが、この発色は周囲の明度や個体自身の活性によって変わる様で、赤味が濃くなったり薄くなったりする。
甲自体の色は脱皮をしない限りは固定なので、これは内部要因による色変化と思われる。

充分に成熟した個体では、甲も厚く、それほどの発色の変化は見せないが、若い個体では、暗い場所で活性が下がった状態だと、どう見てもクロベンケイガニにしか見えない状態にまでなる。
繁殖期の♂では特に顕著で、周囲にライバルがいると活性が上がり、真っ赤に発色し、周囲にライバルのいない環境では茶色っぽくなる。



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*1 甲の側面が網目状になっていて、ここで効率よく酸素を取り込みながら水を取水孔に送り込んでいる
*2 ステレオタイプなカニの飼い方にある「底に敷いた砂利に勾配を付けて陸地部分」を作ったところで、大抵の場合は3日と持たない。そもそもカニが何もしなくても水流があると容易に崩れるのだが。