カニ/ノコギリガザミ
[編集]ノコギリガザミ(Scylla Sp.)
インド洋〜太平洋にかけて広く分布。我国では相模湾以南の泥干潟やマングローブ林に棲息。但し、温帯域に棲息するものは無効分散と思われる。
数種の存在が知られ、我国にはアミメノコギリガザミ S. serrata、アカテノコギリガザミ S. olivacea、トゲノコギリガザミ S. paramamosainの3種の棲息が確認されている。写真の個体は我国産ではなくアジア某所のシーフードレストランで撮影したもので、従って種名不詳だが、形態的特徴からアミメノコギリガザミに近い種類と思われる(真ん中の個体。周りにいるのはアカテノコギリガザミか)。
マングローブ林の林床の泥に穴を掘って棲む(英名をMud Crab)。非常に強力な鉗脚が特徴の大型のカニで、成体になると人間以外の天敵はいないものと思われる(一部地域ではイリエワニに喰われていそうだが)。他のワタリガニ同様、第五脚(第四歩脚)が遊泳脚(指節がヒレの様に平たい)になっている。
我国を含む熱帯アジア地域では、ヤシガニと並んで重要な水産食用資源として顕著。筆者はこのシーフードレストランにて「カニ肉入りカレー」として身を食したが、激辛カレーとこのカニの甘い肉とのマッチングに思わず唸った。非常に美味。
特に鉗脚の肉が旨いことで知られるが、生きている間は決して挟まれないこと。指の一本や二本は簡単にへし折る。挟む力が強いことでは甲殻類中1、2を争うのではないだろうか(もちろん筆者は挟まれたことはない。だからキーボードを打てている)。
我国では、食材としてのマングローブガニという名も知られるが、マングローブ林*1には多種多様なカニが棲むため、本属を指す名称としては相応しくない。英語圏でのMangrove crabも特に本属を指す通称ではなく、単にマングローブ林で見られるカニのことで、むしろイワガニ上科やスナガニ上科のカニを指している場合が多い。
節足動物門 > 甲殻亜門 > 軟甲綱(エビ綱)> 真軟甲亜綱 > ホンエビ上目 > 十脚目(エビ目)> 抱卵亜目(エビ亜目)> 短尾下目 > ワタリガニ上科 > ワタリガニ科 > ノコギリガザミ属
[編集]飼育について
このカニを飼育するためには干潟の環境を再現することが必須。注意点としては、体も大きく力も強いため、しっかりとした丈夫な飼育ケースに必ずキッチリ閉まる頑丈なフタをすること。
具体的には、深さ1,500センチ×幅1,000センチ×奥行き500センチ程度のケースを用意し、干潟の泥を数t敷き詰め、一日に二度、潮の干満を再現してやれば長期飼育が可能ではないだろうか。マングローブを数本植えれば更にGood。複数種の魚の稚魚を餌を兼ねて泳がせ、砂中に軟体動物、ゴカイやイソメ、微小な線虫類等を泥ごと持ち込んで入れてやると、掃除頻度を下げることが可能だろう。
シオマネキ、コメツキガニ等も同様の手順で飼育が可能。
尚、冬場の気温が15℃を下回る様な地域では、水槽サイズに見あったヒーターが必要と思われる。
飼育と言うかどうかは別にして、本種の小型の個体(甲幅10cm程度まで?)を、餌を少なめにして大きく育てずにキープするのであれば、90cmか120cmの定形水槽*2でも可能かもしれない。
泥を厚く敷いてしまうと、硝化濾過も還元濾過も不十分でアンモニアや硫化水素が発生し、カニが即死する場合もあるため、砂を浅めに敷き、別に大型の濾過槽*3で硝化濾過を行い、2週間に1度程度の半換水をしてやると良いだろう。
この環境では脱皮に失敗しやすく、また、成長すると手に負えなくなるため、餌は極限まで少なめにし、成長を抑えれば1~2年程度はキープできる可能性が高い。
このサイズでも鉗脚の力は強いため、脱走されない様に、ガッシリ閉まるステンレス製の金網等で必ず蓋をすること。また、気が荒く素早いカニなので、水換えの際には注意深く行うこと。
甲幅が15cmを超える様になると手に負えなくなるので、そうなった場合は飼育方法を再考するか、2週間ほどベアタンクで泥抜きをし、茹でる等して食べると良いだろう。
[編集]関連記事
*1 そもそもマングローブも特定の植物を指す種名ではない。
*2 薄いガラスやアクリルでは叩き割られる可能性もあるので、水槽強度は充分に考慮すること。
*3 ポンプやホースを鉗脚でへし折られる可能性もあるので、水漏れや漏電に注意すること。