カニ/サワガニ

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[編集]サワガニ(Geothelphusa dehaani

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青森から屋久島にかけて分布*1*2する我国の固有種。最も身近なカニと言えるが、実は発生段階を含め一生を淡水で終える純淡水性のカニは、カニの中では特異な存在*3。他のカニに比べると行動範囲が狭く、そのため地域個体の固定度が非常に高く、棲息地域によって様々な色や形態的な多様性を持つ。
名前の通り、山の沢に多数見られるが、里山の田圃の畦等でもよく見られる。冬期は畦に穴を掘り冬眠していることも多い。稚ガニ〜亜成体の期間は沢の転石の下に棲んでいるが、写真の様な大型の成体になると陸棲傾向が強くなる。アカテガニの様に水から離れることはないが、沢伝いにかなり広い範囲まで移動することがある。
特に雨の日等は、沢から離れて歩きまわることも多い。
サワガニ(Geothelphusa dehaani)とクロベンケイガニ(Chiromantes dehaaniは、我国の稲作文化との関連が深いためか(そのため標本が採取しやすかったためか)、シーボルトが日本から持ち帰った標本や図を元に甲殻類を分類した、ライデン博物館のウィレム・デ・ハーン(Wilhem de Haan)の名が学名に献名されている。
BOD*4の低い水に棲む生き物であるため環境指標動物として顕著。

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[編集]飼育について


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ペットショップで目にする機会も多いが、都会の住人にとっても、そこから少し足を伸ばせば(精々車で数十分)見ることのできる身近なカニなので、できれば採取によって入手して欲しい。特に“どこの馬の骨とも判らない購入個体の放逐”は、数千万年に渡って受け継がれてきた(地域固定)種を、一瞬にして消滅させることになるため、厳に慎んで欲しい。
飼育方法に関しては、バケツに砂利を敷いた様な環境でも暫くはキープできるために簡単だと思われがちだが、Phやや高めの清浄な低温水を好むため、実は長期飼育の難易度は高い。秋〜初夏にかけては簡単に飼えるものの、夏場に30℃を超える様な環境ではすぐに弱る。脱走の名人であるため、水槽等の飼育ケースにはピッタリと閉まるフタが必要で、そのため通気性も悪くなり、夏場には思った以上に水温を上げてしまい死なせてしまう場合が多い。何らかの冷却装置、特に水槽用クーラーがあれば長期飼育が可能。

他のカニに比べると共食いの危険が少ないため、大きめの飼育ケースと充分な隠れ家(兼陸地)を用意してやれば混育も可能。但し脱皮直後に他の個体に襲われて食殺される可能性を排除することは不可能。また飼育下での繁殖は難しい(後述)。
飼育匹数としては、90センチ程度の水槽に♂1匹と♀4、5匹ぐらいが適当だろうか。底に砂利を敷き、流木や石などを多数組む。流木に苔等を植えると特に雰囲気が出て面白い。夏場にはクーラーが必要。かなりの大食漢なので、充分な餌が必要。工夫次第では、60センチ水槽程度で、またクーラーはなくても飼育できるが、流木にウイローモス等の苔を生やす様な美しいテラリウムは諦めた方が良い(密閉+照明は水槽内が40℃を超えることも珍しくない。苔や水草も枯れるが、それより先にサワガニが死ぬ)。
筆者は、底面30センチ程度の縦長水槽で複数年飼育したことがあるが、夏場、水温を下げるのに(我ながら)涙ぐましい努力をした憶えがある・・・。

サワガニといえば、ファミリーでピクニックやキャンプ等で山野へ行った際の、子供の格好の遊び相手になる。子供が「家に持って帰りたい」と言い出すこともあるだろう。
その場合、特に大掛かりな飼育設備を使用しなくても、単独または雌雄一匹ずつ程度なら、プラケースで飼育することが可能。下手に濾過装置等を使用するよりは、少なめの餌と頻繁な水換えにより水質を維持する方が飼育しやすく、またケースが手で持ち運べるため、夏場には日陰の涼しい場所に移動するなどして、水温管理も容易になる。

  • 中サイズぐらいのプラケースを使用。(¥1,000ぐらい)
  • 脱走の名人なので、フタは必ずシッカリ閉まるものを選ぶ。但し、空気穴の少ないものは夏場に蒸れるので避ける。
  • 照明装置は熱源になるので避ける。
  • 水換え前提の飼育環境なので、濾過装置は必要ない。むしろこの状態では生物に有害な亜硝酸塩、硝酸塩発生装置*5にしかならない。水流を作る目的での小型の水中ポンプやエアポンプは有効だが、コードを伝っての脱走や夏場の水温上昇に注意が必要。
  • 2センチぐらい底砂を敷く。ゴマ粒サイズぐらいの砂が適当。大磯砂でも熱帯魚用のセラミックサンドでも川砂でもサンゴ砂でも何でも良い。昆虫マットはNG。
  • 隠れ家 兼 緊急避難場所として石や流木等で陸地部分を作る。
  • 水は5センチぐらいまで入れる。浄水器なしの水道水を使う場合は1日程度汲み置きしたものを使用した方が良い。
  • 餌は1~2日置き。夏場や冬場は1週間に1回程度。市販のザリガニの餌やクリル等を少量与える。
  • 水は季節によるが、2,3日置きに換える。
    • 石や流木等を別の容器に移す。カニはそのままで良い。
    • 飼育容器の水と同量程度の汲み置きしておいた水を、そのままケースに静かに足し水し、舞い上がった糞や食べ残しごと、半分に切ったペットボトル等で掬いながら、元の水量になるまで汲み取る。
    • 脱皮直後の水換えは避け、1日待つ。
  • 夏は水温が上がると死ぬので、涼しい場所に置き、直射日光は避ける。保冷剤やペットボトルに水を入れて凍らせたもの等をケースの上に置いて保冷する。
  • 春・秋は直射日光さえ避ければ特に冷却処置は必要ない。
  • 冬は室内であれば特に冬眠用の環境は用意しなくても良い。屋外で越冬させるのは難易度が高いので、ここでは述べない。

この状態で1年以上飼育していると、恐らくは日々の世話が面倒になり、特に子供は飽きてしまうかもしれないが、それはそれで仕方がないのではないだろうか。世話が疎かになり、生き物を死なせてしまうことは残念なことではあるが、生き物に全く興味を持たず大人になるよりは随分とマシな人間になるだろう。
但し、間違っても「飼いきれなくなったから」と言って、野外にリリースさせないこと。何千万年にも渡って地域個体群として固定されてきた種を、親の身勝手な自己満足のために絶滅させてはいけない。

[編集]繁殖行動


天然下では初春〜初夏にかけて雄と雌が水中で交尾を行うが、飼育下では季節にあまり関係なく、動きが鈍るためか、主に脱皮後の雌を雄が捕まえて抱え込み、腹を合わせて抱き合う様に交尾をする。狭く隠れ家の少ない飼育環境ではこれが問題で、交尾中に雌が弱って死んでしまうことが多い。無事交尾に成功しても、直後に雄が動きの鈍い雌を食殺してしまうことさえある。
また、充分に性成熟していない雌ガニの場合、脱卵率を下げるためなのか、交尾後にも再度脱皮することがあり、短期間での二度の脱皮に加え、交尾での体力の消耗で、ほぼ100%脱皮途中で力尽きて死んでしまう。

交尾が無事に成功すると雌は上陸し、陸上の湿った暗い場所で、自分の尾の内側(通称フンドシ)に産卵し、抱卵する。卵は他のカニとは違い大卵型で孵化時点でゾエアではなく稚ガニの状態で産まれる。稚ガニが孵化すると、雌はまた水中生活に戻り、水流の緩やかな転石の下等で稚ガニを抱いて凄し、かなり大きくなってから放仔する。このため交尾さえ無事に終え、その後に他個体の干渉から隔離できれば、他のカニよりは比較的容易に稚ガニを発生させることができる。
但し稚ガニは、親ガニに比べても特に水質の急変や悪化に弱く、また高水温にも弱く、成ガニに育て上げるまでの難易度は高い。

安定して繁殖させるには、

  • 充分に性成熟した雌雄の確保
  • 交尾前後に雌が雄に殺されない様なケア
  • 交尾後、雌は徐々に陸棲化するので、そのための広い陸地部分の準備
  • 陸地部分への複数の隠れ場所の設置
  • 抱卵中の雌が他の個体に襲われない様な環境の整備
  • 孵化後の稚ガニのため低温で安定した水質の長期間の維持

が、必要。

抱卵中の雌は、身動きが取り辛く、また脱皮再生ができないためか、天然下では鉗脚や脚を落としたまま稚ガニを抱いている個体をよく見掛ける。飼育下では、外敵こそ少ないものの、同居のサワガニが多かったり、隠れ家が少ない様な環境では、無事に放仔まで生き抜くことは困難。また孵化直後の稚ガニは、成ガニにとっては良質な餌にしか過ぎないので、それぞれ充分なケアと環境構築が必要。

  • 通常の飼育環境
  • 交尾用の飼育環境
  • 産卵用の飼育環境
  • 抱卵用の飼育環境
  • 稚ガニ用の飼育環境

上記5種類の飼育設備を準備しておくと、飼育下での繁殖が可能になる。

[編集]サワガニの北海道分布説


サワガニの分布は、本来我国の青森県以南であり、北海道には分布しないとされていたが、移入によってサワガニの分布が北海道にまで広がっているという情報が一般化しつつある。
Wikipediaでは、[要出典]としながらも、「日本固有種で、青森県から屋久島までの分布とされていたが、21世紀初頭の時点では北海道にも少数ながら分布することが判明した」と記されていて(2009年8月現在)、サワガニについて扱ったWebサイトやBlogに多数見られる「サワガニ北海道分布説」の情報源となっている様だ。

移入種を分布と呼ぶかどうかはさておき、どうやらこれらの大元の情報源は「第3回自然環境基礎調査(1989)で、北海道南部での生息がはじめて確認され、身近な生き物調査(1990)でほぼ北海道全土から生息が報告されています」という環境省の発表の様で、同じく環境省系の様々なサイトで、「北海道には本来分布しませんが、近年、移入され、生息が報告されています」と記されている。
本来棲息しなかった土地に、別の生き物が移入されるということは大変なことであり、特に環境省は、この様な場合、移入の経緯を明らかにすべき省庁でもあるのだが、追跡調査を行ったのかどうかハッキリしない。

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あるカニの専門家によると、この基礎調査や生き物調査以外に「北海道でサワガニが発見された」という明確な情報が全くない*6らしく、ひょっとするとモクズガニと見間違えられたままサワガニと報告されているケースが、ほとんどではないかとのこと。
筆者もサワガニの棲息しない某地域の渓流で、サワガニと同様の生活形態を採るモクズガニの幼体らしいカニ(左写真)を目撃したことがあるので、この話しには納得が行く。
そもそも北海道の方からすれば、本来分布しない=ほとんど見たことがないサワガニを、モクズガニの幼体と見分けるのは、至難の業ではないだろうか。

特に誰かが悪いとか、今さら20年も前の調査をやり直して訂正せよと言う訳ではないが、今現在、北海道でのサワガニの棲息情報が明確でない以上、このWikiでは「サワガニは青森県以南に棲息」という立場をとることとする。


[編集]青いサワガニ(BL)


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サワガニの体色は、稚ガニの時はいずれも茶色っぽいが、性成熟後には大きく分けて3型、橙褐色の甲に橙色の脚を持つRE型(Red)、全体的に褐色~暗紫色のDA型(Dark)、青い甲に白い脚を持つBL型(Blue)に分類される*7
同じ山系でも流れる沢によって様々な形質を持つが、BL型は関東南部、静岡、四国、九州の一部の水域によく見られる様だ。特に関東南部(房総、相模)のサワガニは、ほとんどがこのBL型であり、逆に赤いサワガニの方が珍しいという(房総では青いサワガニのことはシミズガニと呼ばれているそうだ)。

食用で流通するものや、その2次ルートのペット流通で見掛けるものが(美味しそうに見えるからか?)RE型であるため、サワガニと言えば橙色のカニというイメージがある。そのため、インターネットの黎明期には、青いサワガニ=珍しいという誤解が一部にあり、ネットオークション等でレア物として扱われようとしたことがあった。
しかし、青いサワガニは、他の生き物にある様に、稀な確率で発生する色変異ではなく、また、カロチンの含まれない餌を与え続けて後天的に青い体色にしたものでもなく、長い年月に渡り遺伝的に固定された地域個体群である。青いサワガニの棲む水域に行けばワラワラいるという情報がネットを通じて行き渡り、レア物業者の野望は頓挫した。

とは言え、よく調べもせずに「珍しい生き物を飼いたい」という需要は一定程度存在するので、ペアで飼育し、累代繁殖させれば小遣い稼ぎぐらいにはなるかもしれない。
但し、サワガニが性成熟するには2年以上の年月が必要で、しかも稚ガニを生育するには清浄で低温の環境を長期間維持しなければならないため、コストに見合うとは思えない。
サワガニが大卵少産型で稚ガニの歩留まりが悪いことも考えると、安定生産させるには100年レベルの事業となるため、「青いサワガニで小遣い稼ぎ」を目論む飼育者が現れれば、むしろ興味深い。



[編集]関連記事

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[編集]関連リンク

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*1 本来は北海道には分布しないとされ、近年発見されるものは人為移入とされている様なので分布からは外した。近年の北海道での発見報告自体についても異論が存在する。
*2 トカラ列島の中之島がサワガニの南限とされているが、中之島、口之島に産するものは新種または未記載種の可能性がある。
*3 サワガニ以上に陸棲傾向の強いアカテガニ、ベンケイガニ、川ガニとして知られるモクズガニ、南西諸島等に棲息する完全に陸棲のオカガニでさえ、子孫を残すためには海へ降り、稚ガニではなくゾエアを放仔する。
*4 Biochemical Oxygen Demand=生物化学的酸素要求量=バクテリアが汚れを分解するのに必要になる酸素の要求量。この値が高いほど水質汚濁が進んでいる。
*5 濾過装置の物理濾過能力が高く、生物濾過能力が相対的に低い場合、濾材が濾しとった残り餌や生物の糞が常にアンモニアの発生源となり亜硝酸濃度が下がらない。また生物濾過能力が高い場合でも、水を換えても換えても硝酸塩濃度が下がらない。この手の小型の飼育ケースに使える濾過装置はスポンジやウールが濾材となっている場合が多く、亜硝酸塩、硝酸塩発生装置になるケースが多い。濾材を洗ったり交換した場合は生物濾過に必要なバクテリアも死滅するため、生物濾過装置としての立ち上がりにはまた時間が掛かることになる。
*6 専門の研究機関等に検体が持ち込まれたことも、発見が報告されたこともないらしい。また移入・放逐の記録はある様だが、この時はほとんどの個体が越冬できなかった様だ。
*7 各地のRE,DA,BL等のそれぞれの型について、特に遺伝的な繋がりがある訳ではなく、単に見た目の相違による分類である。何故そういう色型になるかは、恐らく地形や土壌の色等が関連していると思われるが不明。数万年前にたまたま発現した色変異個体群が、周囲の環境から外敵等に見つかりにくく生き残った。つまり適応したと考えるのが普通か。