カニ/イワガニ
[編集]イワガニ(Pachygrapsus crassipes)
日本では北海道以南に棲息するとされる。名前の通り岩礁の磯へ行くと必ず目にすると言ってよいカニ。潮上帯の、まともに波しぶきをかぶる様な岩の隙間で見られる。
外敵(主にヒト)に追われた時等、やむを得ず飛び込む場合を除いては、海に入ることは稀で、素早く逃げ込める様な岩の隙間を拠点にして岩の上下を歩きまわっている。
岩礁の磯に棲むカニは種類が多く、また潮上帯付近をウロウロするものには他にイソガニやカクベンケイガニがあるが、本種はその特徴的な甲のシワによって簡単に見分けが付く。
また、干潮時の岩場にできる様なタイドプールに本種が入ることも、脱皮の際を除けば稀で、水面下の岩陰にいるのはイソガニやケフサイソガニ(タカノケフサイソガニ)、ヒライソガニの場合が多い。
濃緑色の体に黄色の斑が入るカニで、岩の隙間で生活するのに適した平べったい体をしている。鉗脚は目立つほど大きい訳ではないが、挟む力は強く、同じ様な体格(鉗脚の大きさも)のサワガニと同じ感覚で、素手で掴んだりしない方が良い。挟まれると相当に痛い。(かなり大きな個体もいて、岩の隙間から殺気すら感じることがある)
磯で釣りをしていると撒き餌にワラワラと寄ってくることもあり、また釣り餌としても有用なため、釣り人には馴染みの深いカニだが、釣餌店でイワガニという名で売られているカニはカクベンケイガニであることが多い。
波の届かない陸上や防波堤をウロウロしているカクベンケイガニとは違い、荒波をまともにかぶる様な岩場に多くいる本種を、大量に捕獲するのは難易度が高いものと思われる。
ペットショップ等で見掛けることはあるかもしれない。
食性はやや肉食性の強い雑食で、死んで打ち上げられた魚を食べたり、生きたフナムシを捕食するところも目撃するが、主には海藻等を食べているものと思われる。本種と同様に陸棲傾向の強いアカテガニ、クロベンケイガニ、ベンケイガニとは違い、汽水域や淡水域に進出することはほとんどなく、またカクベンケイガニの様に潮の届かない完全な陸地部分をウロウロすることもあまりない。
従って、充分な量の清純な海水と広めの陸地を用意してやる必要があり、長期飼育は難しい部類に入ると言えるだろう。
節足動物門 > 甲殻亜門 > 軟甲綱(エビ綱)> 真軟甲亜綱 > ホンエビ上目 > 十脚目(エビ目)> 抱卵亜目(エビ亜目)> 短尾下目 > イワガニ上科 > イワガニ科 > イワガニ属
[編集]参考情報
イワガニは日本列島および朝鮮半島と、北米大陸太平洋岸(オレゴン州以南)、ハワイ諸島、ガラパゴス諸島に分布する。これほど離れた地域に点在するため、東アジアから北米大陸に、または北米大陸のものが東アジアに、船のバラスト水等によって運ばれ移入したとする議論があり、我国には1890年以前の記録がないという理由で、一時期は北米からの外来種とされたこともある。
しかし、最近の(DNA)研究の結果、80万年~100万年ほど前に両者は分化したことが判明し、自然分布であるという結論が出たようだ。
筆者の私見だが、我国で記録がなかったのは、そこらの磯にウジャウジャいるカニの上、水産価値が低く、またサワガニ(Geothelphusa dehaani)やクロベンケイガニ(Chiromantes dehaani)の様に稲作文化との接点もないため、“岩場にいるイワガニ”を、敢えて独立した種として認識することもなかったのではないだろうかと思う。
もしもシーボルトに磯釣りの趣味があったなら、違う展開があったのかもしれない*1。
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*1 シーボルトが日本から持ち帰った標本や図を元に、甲殻類を分類したのがライデン博物館のウィレム・デ・ハーン。サワガニやクロベンケイガニの学名には、彼の名が献名されている。