イモリ/ニホンイモリ
[編集]ニホンイモリ(Cynops pyrrhogaster)
北海道と沖縄を除く我国各地に分布する我国固有種。奄美大島を含む琉球列島には近縁のシリケンイモリが棲息*1。
ニホンイモリはアカハライモリとも呼ばれる。我国各地の池・沼・湖やその周辺の湿地、田圃等に広く分布し、かなり標高のある山上湖等でも見られる。いずれも生物学的には同種とされるが、地域的な形質や性質の違いから東北・関東・渥美・篠山・広島・中間の6種族に分けて捉える考え方も在る。
実際に、別種族間では繁殖行動に違いがあり、種族によっては別種族との繁殖が成り立たないケースもある。
写真の個体は篠山種族と思われる個体で、左が♂。右が♀。雌雄の見分け方は、尻尾の形状を比べると一目瞭然。♂の尻尾は柳葉型で、ウナギイヌの尻尾の様になっている。また♂の顎は張り、指も長く、総排出口が膨らんでいることで簡単に見分けが付く。
♂と♀を比べてみると一目瞭然だが、♀だけを見ていると♂に見えなくもないものもいる。♀に見えそうな♂はいないので、「どっちか判らない」場合はまず♀。
生物のフェロモン物質として初めて確認されたのが、このニホンイモリのフェロモン物質「ソデフリン」と言われる。命名は
耳腺に猛毒のテトロドトキシンを持つため、生食は危険。火を通して食べる場合も専門の調理師に相談すること*2。
脊索動物門 > 脊椎動物亜門 > 両生綱 > 有尾目(サンショウウオ目)> イモリ亜目 > イモリ科 > トウヨウイモリ属
環境省指定: 準絶滅危惧(NT*3)
[編集]イモリのイメージ
- ニホンイモリは、脚が切れれば肩口からでも骨まで再生し、眼が潰れても網膜まで再生するため、生物学や再生医学の研究対象として有名。その姿形からくる印象も相俟って“生命力の権化”の様な醜悪な生き物のイメージで捉えられることが多いが、実際には環境の悪化に弱く、我国で極端に数を減らしている生き物の一つ。
- 古くから淫乱貪欲の象徴の様に見られ、怪しげな媚薬や精力剤の原料としてのイメージが伴う。交合中の雌雄を無理矢理引き剥がし、山を隔てて埋める等という処方が伝えられたりするが、イモリには交接器官がないため、この処方は不可能。
イモリの繁殖行動は、繁殖期に♂が狂った様にダンスをし、♀が宥める様に尻尾を巻き付ける様にするところから、激しく交合している様に思われたためと思われる。確かにカエルやサンショウウオとは違って体内受精ではあるが、♂が水底に落とした精胞を♀が総排出口から体内に吸い込むという繁殖方法を採るため、交接はしない。
- 小学校の教科書等で、モリアオガエルが木の上に産み付けた卵嚢の下で、オタマジャクシが落ちてくるのを待つイモリの写真が掲載されることもあり、狡猾なイメージが付き纏う。
実際のイモリは採餌が非常に下手で、本気で泳ぐとオタマジャクシの方が遥かに素早い。そのため基本的には“待ち”の狩りをする生き物。モリアオガエルの産卵木の下で待っているのも、そうした行動の一つであり、特に狡いわけではない。同所には天敵であるマムシやヤマカガシも棲息するため、餌にありつく前に自分が餌になってしまう可能性も高く、効率的とは言えない。
また食べるときは必死にがっつくので大食漢の様に思えるが、他の生き物(例えばトカゲ等)に比べると新陳代謝が不活発であるため、どちらかと言えば小食な生き物。これをモリアオガエルの天敵とするのは、誤りとは言えないまでも正確ではない。
[編集]関連記事
イモリ/茜さす
イモリ/シリケンイモリ
カエル/モリアオガエル
[編集]関連リンク
Deca-J有尾目部会 | ニホンイモリ成体の飼い方
Deca-J有尾目部会 | ニホンイモリの繁殖地
[編集]参考情報
下写真はニホンイモリの幼生。カエルの幼生(オタマジャクシ)とは違い、前肢が先に生える。
イモリの繁殖期は地域にもよるが4月〜6月ぐらい。幼生には鰓があり、やがて四肢が生えそろうと共に鰓が消失し、上陸。その後2年程度は亜成体として完全な陸棲生活を送る。この亜成体の時には浅い水溜りでさえ溺死する。
イモリの成体(水棲)は、飼育生物に成り得る生き物の中では、特に難易度が低く、脱走してドライアップという事故を除けば、余程のことがない限り丈夫に生き続けるにも関わらず、自家繁殖が難しく、市場にもほとんどWC個体しか出回らないのは、この亜成体の期間の飼育難易度が高いためと思われる。
2年以上もかけて育てたCB個体が末端価格300円程度では、商売にならない。
準絶滅危惧種とは言え、数を減らしている主要因は棲息環境の悪化・減少によるものであり、いるところに行けば大量に棲息するため、今のところ採取圧で絶滅する心配はない。但し市場に出回る個体のほとんどは、繁殖期に集まってくるものを一網打尽にされたものである場合が多く*4、地域個体群の短時日での消滅という事態は起こり得る。
飼育生物としての歴史が古く、飼育難易度も低く、また寿命が長い(20年以上)ため、各地で放逐が頻出し、前述した種族の特異性が失われつつあるという話しもある。筆者が確認したところでは、同種族間でも少し離れた棲息地では全く違った形質(=地域形質)を持つため、安易な採取・飼育・繁殖は厳に慎むべし。
もちろん飼いきれなくなって(あるいは売れ残ったため)野外に逃がす等は、最悪の生態系破壊であるため厳禁。
*1 アマミシリケンイモリとオキナワシリケンイモリを別亜種扱いする場合もある
*2 恐らく存在しない
*3 NT=Near Threatened=存続基盤が脆弱(現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性がある)。
*4 他の生き物でもそうだが、いくら大量に棲息していても、繁殖期でもなければ群れてはおらず、普段は生態に詳しい人が必死に探しても商売できるほど捕獲することは不可能。一度でもフィールドで生き物を観察したことがあれば自明の理。