十脚目通信

レッドリスト見直しに関するDeca-Jの見解

○はじめに

環境省のレッドリストが改定され、そのリストが公表されました。

鳥類、爬虫類、両生類及びその他無脊椎動物のレッドリストの見直しについて

レッドリスト自体は、上記に公表されていますので、ご覧頂いて、「こんなにも多くの生き物が絶滅寸前なんだ!」とショックを受けていただくことにして…。とりあえずここでは、Deca-Jに関係のある「その他無脊椎動物レッドリスト」の十脚目(エビ目)。その中でも、ひょっとすると飼育市場に出回る可能性のあるものについてレポートします。

最初に断わっておきますが、レッドリストにリストアップされている生き物のほとんどの、その絶滅が危惧される要因は採取圧ではありません(これを言っておかないと「開発による環境破壊の方が酷いじゃないか!」とかいう輩が、前も見ずに突っ込んでくるので)。
ですが、我国の生き物飼育の世界には「他人より、ちょっとばかり珍しいものを飼いたい」というセコイ選民意識が蔓延していまして、私自身もその心情を痛いほど理解しておりますし、また、我国の生き物売買市場には、このプチセレブ意識を巧妙に突く「激レア商品販売」という卑しい商法が罷り通っていまして、マナーや良識やマクロな視野よりも目先の利潤を追求する者を“勝ち組”と呼んで有り難がる風潮が(特にマスメディアに)ありますが、特にそれを否定しようとも思いません(嗚呼、美しい日本は何処へ行った?とは思いますが)。

ひどく遠回りをしましたが、要するに、レッドリストが公表されたことにより、却って商品価値が高まってしまう“絶滅危惧種”が現れる恐れがあります。レアなものを飼いたい・売りたいということ自体、私は否定しませんが、無駄な消耗には強く反対です。
そのことをレポートしたいと思います。

○ 絶滅危惧I類(CR+EN)
このカテゴリーには、主に島嶼の固有種が数種類あがっていますが、まず市場に出回ることはないので解説を省きます。
CR=Critically Endangered=ごく近い将来における野生絶滅の危険性が極めて高い。
EN=Endangered=IA類ほどではないが、近い将来における野生絶滅の危険性が高い。
○ 絶滅危惧II類(VU)
このカテゴリーにも、主に島嶼の固有種が多数あがっていますが、本州に棲息するものも数種あがっています。
この中で(合法・違法を問わず)市場に出回る可能性がある、あるいは既に出回ったことがあるものは、ニホンザリガニ、サキシマオカヤドカリ、ヤシガニ、シオマネキ(NTからランクアップ)、ハクセンシオマネキ(同)でしょうか。

ニホンザリガニについては、絶滅が危惧される要因は外来種による影響と棲息環境悪化です。各地で保護対策が採られている様ですが、「ニチザリ」と称して時々市場に出ることがある様です。
一般にザリガニで連想するアメリカザリガニに比べると、飼育難易度が遥かに高いです。非常に清浄・低温の水でないと生きられず、その環境を飼育下で再現するのは相当の金持ちで、かつ小まめな性格、そして生き物飼育に関するセンスと知識を持っていないと無理でしょう。私には絶対無理(^_^;)

サキシマオカヤドカリは、我国では限られた場所にしか棲息していません。他のオカヤドカリ同様に国指定の天然記念物であり、捕獲許可業者の行動範囲内で見付かる可能性は、ほとんどありません。もちろん植物防疫法で輸入も禁止です。「キール水だ!」と強弁しようが、「無効分散の可能性」を示唆しようが、売られていれば必ず違法な要素が絡んでいるはずです。
飼育に関しては、我国内で長期飼育の記録はなく、飼育方法等不明です。ムラサキオカヤドカリナキオカヤドカリと同じ飼育環境では長生きさせられないことだけは知られています。

ヤシガニは、オカヤドカリ科ですが属が違うため、国指定天然記念物とはなっていない様です。環境省の種の保存法(絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律)で「国内希少野生動植物種」に指定されているということも、今のところありませんので、捕獲・販売・飼育とも合法です。
但し、“オカヤドカリの大きいヤツ”という感覚では、とても飼育できる生き物ではありません。呼吸方法からしてオカヤドカリとは全く違います。
飼育するためには、大型の爬虫類を飼育する以上に頑丈で巨大なケースが必要になります。その上で熱帯の生き物ですから冬はヒーターが必ずいります。体が大きく力も強く、鉗脚は強力で挟まれると指の一本や二本は無くす恐れがあります。
水族館でも長期飼育が難しい生き物。しかも絶滅危惧種。私なら飼育しようとは思いません。もちろん、それでも飼いたいという方がいても否定はしませんが…。

シオマネキやハクセンシオマネキは本州でも干潟で(後者は砂浜でも)見られるスナガニ科シオマネキ属のカニです。全国的に干潟や綺麗な砂浜は減っていますので、それに伴って棲息環境が激減しています。
干潟の小さな生き物や、砂の中の有機物(珪藻等)を濾しとって食べるカニですから、長期飼育するためには干潟の環境を忠実に再現する必要があります。深さ1m以上に泥を敷き詰め、一日に二度ほど干満を繰り返して、尚且つ海水を清浄に保つことができれば可能かもしれませんが、現在この世に存在する飼育器具をフルに使用したとしても水槽レベルでの飼育は難しそうです。
VU=Vulnerable=絶滅の危険が増大している。
○ 準絶滅危惧(NT)
このカテゴリーにも、主に島嶼の固有種が数種類あがっています。テナガエビ科やヌマエビ科、サワガニ科のカニ等も多数含まれています。
わざわざハブに噛まれる危険を冒してまで市場に流通させようという、根性のある方がおられるとは思いませんが、一般にサワガニはカニの中でも飼育難易度が高いということを、飼育者側は知っておいてください。
身近なカニで、子供の頃にバケツに入れてしばらくキープしていた方も多いと思いますが、非常に清浄な水と低水温、高phを好みますので、飼育環境で一夏越させるのは難しいです。

ムラサキオカガニは、我国内では非常に個体数が少ない様です。台湾やインドシナの方にも棲息する様で、分布域は広いのですが、密度は非常に薄い様です。市場に出回る可能性は低いですが、甲幅5センチというと(その横から長い脚が出ている訳ですから)かなりデカイですよ。

ヒメオカガニ(DD=情報不足からランクアップ) は、元々情報不足だったぐらいですから、その数は非常に少ない様です。もちろん飼育情報は無いでしょう。

オオナキオカヤドカリは、これも国指定天然記念物ですが、市場に出回る可能性はあります。但し(沖縄本島での)個体数は非常に少ないので、大量に出回る可能性はないはずなのですが…。
赤や濃紫の個体が多いので、違法に出回る可能性の高い種です。
ムラサキオカヤドカリナキオカヤドカリとは棲息環境が違うので、同じ手順で長期飼育はできません。もちろん“飼育セット”と称する玩具で飼育することは(どんな生き物でも)不可能です。

コムラサキオカヤドカリは、沖縄本島にも棲息していますので、市場に流通する可能性はあります。独特の棲息環境から言って、専門に採取するのは命懸けになると思いますが…。
ムラサキオカヤドカリナキオカヤドカリとは棲息環境が全く違いますが、ある環境を満たしてやれば長期飼育は可能かもしれません。 もちろんムラサキオカヤドカリナキオカヤドカリでさえ数日〜数ヶ月で死なせてしまう様な飼育環境では、すぐに死んでしまいます。
NT=Near Threatened=存続基盤が脆弱。
(現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性がある)

○おわりに

環境省のレッドリストは、もとより絶滅が危惧される生物の保護のためのリストです。我国の世界でも希有な“種の多様性”を保護するために設けられている調査資料です。
レッドリストに載った生き物は、売買や飼育が即ち違法になるという類のものではありませんが、少なくとも希少な生き物であることは確かなのです。生き物の飼育を愛する人なら全ての方に、そのことを深く受け止めて欲しいのです。

違法だとか、合法だとか、言ってしまえばそういうものは人間の勝手な都合です。貴重な生き物が絶滅の危機に瀕している、そのことが問題なのであって、その原因や犯人探し、あるいは違法か合法かの“ためにする議論”を、私はするつもりはありません。
もちろん違法なことを、そうと判って勧める気は毛頭ありませんが、むしろ合法なら何でも許されるという風潮の方により大きな危惧を覚えます。

生き物の興味深い生態や種の多様性は、それが存在するだけで既にして貴重です。安易な飼育や採取、そして目先の金儲けが、もっと多くの生き物を絶滅に追いやり、心ある飼育者の自由を奪っているということ。
飼育者も、販売業者の方も、一度真剣に考えてみてください。
「貴重な生き物だから大事に飼う」のは当たり前です。その前に、そこらにウジャウジャいる様な生き物であっても、自身の技量・知識・性格・経済力に即して、買う前に“長期飼育可能かどうか”を考えてから、飼い始めてください。

オカヤドカリ飼育に関する一般常識については「オカヤドカリ飼育に関し、判明している事実」を、一般常識ではなくオカヤドカリについての疑問点は「オカヤドカリ飼育に関するFAQ」を、ネット上に飼育情報が氾濫していて迷っている方は「オカヤドカリのトンデモ飼育法」をご参照ください。